欧州王者リバプール、崩壊から再生への「3年7カ月」 闘将クロップが変えたものとは?
クロップ体制の第一歩 「全員がアダムと同じようになってくれ」
そんな状況――わずか1年半前に優勝争いを演じた記憶はまるで幻だったかのように遠い彼方へと消え去り、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権争いからも大きく後退。しかも慢性的な資金不足に悩むエバートンにも抜かれた状況で、クロップが契約期間中の3年の間に「優勝争いに加わる」と言っても、報道陣の失笑を買うのが関の山だった。
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しかしクロップは、見事に有言実行した。そしてこの3年7カ月の歩みを辿れば、ドイツ人闘将が就任当初の時点から、ハイレベルなプレミアリーグでクラブ史上最高となる勝ち点97を奪い、2005年以来6度目となるヨーロッパ王者となった今日のリバプールの成功を見据えていたのが分かる。
己のイメージする最強のサッカーを顕在化する――それは真に偉大な監督だけが持つ資質だ。まず明確なビジョンがある。「これが俺のサッカーだ」「これがベストだ」と確信するオリジナルなスタイルがある。
偉大な監督には、そのビジョンを実現する力もある。選手や経営陣、そしてサポーターともそのビジョンを共有し、同じように“最高だ”と信じさせる力もある。個人の脳内にあるイメージを現実の世界に出現させ、周囲を感動させる力。結論を言ってしまうと、そんな芸術的とさえ言える能力を、最初からクロップは身につけていたのだ。
1年目、シーズン序盤ではあったが、途中就任となったシーズン、クロップはまず与えられた手駒の中に、自分の“ゲーゲンプレス”戦略に耐えうる反射神経とフィットネスを持つ選手がいるのかどうかを探し当てることから始めた。それが第一のステップだった。
リバプールのトレーニング場「メルウッド」を初めて訪れたクロップが、開口一番に尋ねたことが「この中で一番フィットしているのは誰だ?」ということだった。
選手一同が「アダム」だと、前年にロジャースがリッキー・ランバート、デヤン・ロブレンとともにサウサンプトンから引き抜いたアダム・ララーナのファーストネームを口にした。ララーナは1日中走ってもケロッとしている、タフなイングランドのミッドフィールダーだった。
「よし、それじゃあ、ここにいる全員がアダムと同じようになってくれ」
こうしてクロップのリバプールにおける第一歩が踏み出された。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。