Jリーグはファンに伝える責務がある 前代未聞の誤審騒動、観客は10分間も“蚊帳の外”

問題のシーンは大型ビジョンで一度も映し出されず

 しかしこの間、スタジアムの大型ビジョンには、問題のシーンが一度も映し出されることはなく、これだけの混乱があったにもかかわらず、主審もマッチコミッショナーも何もコメントを残していない。後味の悪い思いを引きずりながら帰途に着いたのは、お金を払って観戦した両チームのファンである。

 主審が神でないことは、誰でも知っている。一方で主審の判断については、多くのファンが知りたがっている。例えば、家本政明主審がインターネットで語れば、怖いもの見たさもあるだろうが、圧倒的な関心を集めるそうだ。

 日本では伝統的に、隠すことが守ることだと考えられてきた。しかし真実を明らかにしなければ物事は前進していかない。

 Jリーグは微妙な判定のシーンを大型ビジョンで一切流さない。この日の日産スタジアムでも、PKを決めるシーンは映し出しても、PKにつながるファウルは避けている。それは微妙だからこそ、飽きるほど繰り返す欧州や南米の志向とは明らかに逆行している。

 当然ながら、この日の審判団は、浦和サポーターから大ブーイングを浴びて退場した。だがこれが南米なら、レフェリーがピッチを去る前にアナウンサーがマイクを向けているだろう。またレフェリーもモニターで確認してから、誤りを認めることがあるそうだ。

 今回の判定は、間違えても仕方がないケースだったと思う。だからこそ、なぜこういう事態に陥ったのかを、Jリーグはしっかりとファンに伝える責務がある。それが本当のファンサービスだと思う。

加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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