日本で誕生した“キック専門コーチ” プロの「上手くなりたい」欲求も満たす特化型指導
「キックマスター講座」を展開する上船氏 男女の日本代表クラスの選手からもオファーが届く
日本でプロのキックコーチが誕生した。世界を見渡せば、セットプレーやスローインなどを専門指導するコーチがいるそうだが、キックに特化したのは初めてなのかもしれない。
プロキックコーチを宣言したのは上船利徳氏。神村学園高校から東京国際大学へ進み、ドイツ4部のKFCユルディンゲンでプレーしたが、故障のために若くして現役を退いた。だが引退後も精力的な活動を続け、「エリート人材育成 淡路島学習センター」を立ち上げ、高校年代の選手たちの育成環境を整え、その傍らで自ら「キックマスター講座」を実践し好評を博してきた。早速「YouTube」で実践映像を流すと、「急上昇クリエイター」に選出され、男女の日本代表クラスの選手たちからも次々にオファーが届いている。
もともと平凡なレベルだったという上船氏は、なんとかボランチとして活路を開きたくて、神村学園高校1年生の時に、かつての恩師にアドバイスを求めた。
「俺なら、いろんなキックで展開ができるボランチが欲しいかな」
その一言で、ひたすらボールを蹴り込む毎日が始まった。
動画では、インステップ、インサイドの正しい蹴り方など初歩的なものから、ロングキック、無回転、同じフォームでのニアとファーへの蹴り分けシュートなどを披露。バルセロナ市内のクラブでプレーする中学生からは「動画を見て練習したらマスターすることができました」と、自ら無回転シュートを蹴る映像が届いた。一度だけ直接指導を受けた元日本代表選手も、「ファーサイド狙いのシュートに可能性を感じてきた」と喜んでいたそうである。
本来キックを教えるのはコーチの仕事だ。しかし現実には大人に近づくほど、キックができることを前提とした戦術練習が繰り返され、さらに個が技術を伸ばしていくための道標がない。いつの間にか「技は見て盗むもの」が常識化してきたが、本来はそのプロセスを短縮し効率良く伸ばしていくのが、コーチの役割になる。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。