ドイツで今も高く評価される元浦和監督 GM的視点も備えた智将が貫いた哲学とは?

(左から)フィンケ氏、フライブルクのシュトライヒ監督【写真:Getty Images】
(左から)フィンケ氏、フライブルクのシュトライヒ監督【写真:Getty Images】

「今日勝つことがすべてじゃなく、チームもしくはクラブを成長させる過程がすべて」

 理想のゴールは、「FWがシュートするんじゃなくて、来たボールを押し込むという形まで持ち込むこと」。大胆に先鋭的に、でも我慢強く、時間をかけて若手選手を成長させ、1992-93シーズンにクラブを初めて1部リーグ昇格に導くと、94-95シーズンには3位と大躍進。UEFAカップ(現UEFAヨーロッパリーグ)出場を果たしている。

 現場だけではなく、現代のプレミアリーグ監督みたいにクラブ経営にも関わる。クラブ哲学をまとめ上げ、育成部門に落とし込み、どこよりも早く育成アカデミーを作り上げた。DFB(ドイツサッカー連盟)がブンデスリーガ各クラブに、育成アカデミーの設置を義務化するよりもずっと早くにだ。スタッフ、コーチ陣も自前で育て上げ、現フライブルク監督のクリスティアン・シュトライヒを雇ったのもフィンケだった。モラスは、そんなフィンケを述懐する。

「すごいノウハウがあったし、あの人と会話をしても、法律や医学からいろんな話が出てきた。通常のクラシカルなサッカー監督が持っている知識じゃないところまですごく詳しかった。あの人がよく言っていたのは、『今日勝つことがすべてじゃなくて、チームもしくはクラブを成長させる過程がすべてであり、過程の一環として勝っていくことが重要なんだ』ということでした」

 プロサッカーという世界の中では、勝ち負けが大きな評価基準になるのはある意味当たり前だ。誰もが勝ちたいと思うし、そのために努力をする。勝利を渇望し、どこからでも這い上がり、競争に打ち勝って成功を手にする。でも、そのことだけがすべてではないし、何が成功かはクラブによっても違う。だからこそ、そのためのプロセスというところをおざなりにはできないし、「クラブを成長させる過程」を高いシンクロ率で共有できていなければならないのだ。

page1 page2 page3

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング