【ベスト4決定】 手札はすべてさらけ出したか…ファン・ハール戦術の奥行き
相手の戦術に応じてファン・ハールが打った妙手
コスタリカはワイドアタッカーを前線に配した3-4-3(守備時には5-2-3に変化)でオランダ戦に挑んできた。ウイングバックはできるだけバックライン付近へポジションを下げさせ、5バックへの迅速な移行を意識してきた。とはいえ、コスタリカのウイングバックは豊富な運動量を持つがゆえに、アタッカーと連携してワイドに起点を作る要にもなれる。
前述の通り、ワイドを有効に使う攻撃はオランダの守備陣にとって大きな脅威となる。サイドに引っ張られたDFラインの大外にできるスペースを、逆サイドのワイドアタッカーに使われる危険があるからだ。この攻め筋を阻止することが、オランダにとっては急務だった。
コスタリカも守備面では、オランダと同じ問題を抱えていた。これまでの戦いを見る限り、ボールサイドに人をつけていく形でDFラインが動くため、大外にスペースを空けてしまう。さらに、同国の場合はスペースよりも人を見る意識がオランダより強いことから、ワイドに引っ張った動きに内側の動きを連動させることで、DFを釣ることができるのだ。ギャップを意図的に生み出すことができることがファン・ハールの狙いどころだった。
そこでコスタリカと同じくワイドアタッカーを配した3-4-3を選択し、これらのポイントを効果的に押さえることに成功する。まず、ロッベンなど質で上回るワイドアタッカーとウイングバックによるユニットを、同サイドの相手ユニットにぶつけ、先手を取る戦法で守備を押し下げた。コスタリカのカウンターは中央を経由することがほとんどないので、あらかじめサイドの攻撃を封じれば、結果的に起点を封じることと同じ。同時に、自分たちのDFラインの問題点を極小化したのだ。積極的なワイド攻撃でコスタリカの5バックを動かして大外のスペースを使い、ライン間を広げてギャップを突く戦略は多くのチャンスを生んだ。
ここで重要な役割を担ったのが数少ない司令塔であるスナイデルだ。狭いスペースやパスコースを巧みに使える彼が中央でボールに絡むこと、つまりはこの差配が効果絶大となった。コスタリカの布陣と同じく、中央が二枚のセントラルミッドフィルダーと薄くはなるが、そこを抜かれても3バックがしっかりと受けることができる。スタートからサイドは戦略的に押し込んでいるので守備の時間を作ることが計算に入っている。
敵の戦略の骨格を叩く方法がそのまま味方の問題点を隠すことにもなる、このファン・ハール戦術の妙手が勝敗を左右した。コスタリカからすれば、初手でいきなり王手をかけられたような状況だったに違いない。実際、オランダは試合の序盤はコスタリカの攻めを機能不全にしつつ主導権を握り、狙った形でいくつもの決定機を得ていた。