華々しさだけが欧州サッカーではない 日本人指導者が語る中小クラブに学ぶこととは?
欧州でも散見される凋落する名門、再び浮上するために大切なこと
欧州サッカーには様々な歴史がある。そしてそのすべてが華々しいものではない。名声を集めスポットライトを浴び続けるクラブがある一方で、人知れず凋落するクラブもある。先日、J1ヴィッセル神戸のアシスタントコーチに就任したモラス雅輝が所属していたオーストリアのヴァッカー・インスブルックの男子トップチームにも、苦い過去があった。
歴史的に見れば、オーストリアでも3番目に多くのタイトルを取った、国内においては超名門クラブであるのは間違いない。だが、2001-02シーズンに大きな問題が生じた。当時ヨアヒム・レーブ監督(現ドイツ代表監督)が率いるチームはリーグ3連覇を成し遂げ、勢いそのままにUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場を目指していたが、最後のプレーオフでバレンシアに負けてしまった。結局CL出場による放映権が入ってこなかったわけだが、その時の経営陣がないお金を使っていたことが発覚。一気に破産へと追い込まれてしまった。
転がり落ちるのは早いものだ。ドイツのブンデスリーガでも、こうした例は多くある。
例えばカイザースラウテルン。1997-98シーズンに2部リーグから昇格後、すぐに1部リーグでも優勝を遂げた伝説的なクラブだ。だが、現在は2部リーグどころか3部リーグが定位置になってしまっている。今季に至っては4部降格の危機もあったほどだ。戦績だけでなく経営面でも厳しい状況が続き、もう少しで破産も止むなしという状況にまで追い込まれていた。最後のところでルクセンブルクの富豪が救いの手を差し伸べ、最悪の事態は免れたが、「名門」という冠は気をつけないと足かせにしかならない。2部リーグを戦うシュツットガルト、ハンブルガーSVというクラブも、気をつけないと同じような危機に陥りかねない。
では一度失敗したクラブは、どのように立て直しを図ればいいのだろうか。そのためには、「何が自分たちにとっての“成功”か」をはっきりと具体的に整理することが重要になる。
例えばドイツのレバークーゼンやヴォルフスブルクがリーグ優勝できないからと叩かれたりはしないが、だからといって残留を果たしたからOKというわけにもならない。チームにかけられた人件費などから、クラブにおける”結果”というものの基準を考える必要がある。そして自分たちの立ち位置からのビジョンをしっかり持っている人は、自分たちのクラブにおける成功というものを具体的に設定することができるはずだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。