Jリーグは「選手の契約期間」公表を促すべき 応援するファンにも“知る権利”はある
欧州などの国際基準から外れた日本独特の慣例
レアル・マドリードへの移籍が決まった久保建英の契約内容について、FC東京の大金直樹社長が15日のヴィッセル神戸戦後に説明した。結局、関係者以外は久保の契約が今年の誕生日で切れることを知らなかった。
そもそもFC東京に限らず、Jリーグのクラブは基本的に個々の契約期間を公表していない。ファンは、贔屓の選手がいつまで自分のクラブでプレーしてくれるのか知らないまま応援している。
しかし、これは国際基準から外れた日本独特の慣例だ。欧州各国の選手名鑑を見れば、すべての選手の契約期間が明記してある。シーズンが佳境に入れば、タイトルの行方とともに、契約期限が迫っている監督や選手たちの移籍動向を巡りメディアは一気に盛り上がる。年間順位や昇格降格チームが決まると途端に話題が乏しくなり、ウィンタースポーツに押し出されてしまう日本との大きな違いだ。
レアルは世界屈指のビッグクラブなので参考にはなり難い側面もあるが、久保と5年契約を交わしたということは、4年目までに高く売りたい思惑も含んでいる。逆に売らないなら、久保は代えの効かない大スターとして契約延長のオファーを受け、今度こそ天文学的な違約金が設定されるはずだ。
日本でデザイナーとして活躍するリバプール出身のトニー・クロスビー氏は、クラブ生え抜きで大スターになったマイケル・オーウェンの移籍について、こう語っていた。
「世界中すべての選手がレアルからのオファーは断れない。だから、それは仕方がない。でもニューカッスルに戻って来たのは許せない」
もっともリバプールは、2004年にオーウェンがレアルに移籍した時点で800万ポンド(当時のレートで約16億円)の違約金が入ったわけだから、それは「仕方がない」幸せなトレードだった。
一方、昨年まで清水エスパルスで10番を背負った白崎凌兵が、今年から鹿島に移籍した。もし昨年までで白崎の契約が切れることが分かっていれば、メディアはクラブとの契約交渉に着眼し、延長の意思がないと判明すれば視点は争奪戦へと変化していく。ところがこうしたプロセスがなく、白崎は静かにゼロ円移籍を済ませてしまった。もちろん地元では、それなりのニュースになったのかもしれないが、山梨学院高校時代の争奪戦に比べれば扱いは小さかった。
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加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。