「牽引車の轍~クラブリーダーのバイオグラフィー~」vol.3 羽生英之(東京ヴェルディ・代表取締役社長) 誇るべきファミリーのために
育成こそがヴェルディの魂
社長になって6年目。あらためて感じるのは「このクラブの育成には特別な強みがある」ということです。長い時間をかけて染みついた、文化ともいえるものがある。男子も女子も、小学生からここで育った選手が多いから、まさに兄弟、姉妹のような関係なんです。このクラブを文字どおり“ホーム”だと思っているからこそ、(高木)善朗も帰ってきてくれたわけです。チーム存続のために、かつては育てた選手を売らなければなりませんでした。でも、そのフェーズはもう終わり。今は、やむを得ず出て行った選手を再び取り戻すフェーズに入ったと思っています。
多くの方々から「お前が社長だから」とサポートをいただきながら、それでも資金面で厳しい状態は続いています。私には、手を差し伸べていただいた方々に、どんな形でも「サポートして良かった」と思ってもらうまで今の仕事を続ける義務がある。そして何より、このクラブを愛する才能豊かな“息子”や“娘”の成長を見守りたいし、その頑張りに応える義務もあると思っています。このクラブは、私にとっても愛情の限りを注ぎ込む“ホーム”なんです。
【了】
profile
羽生英之(はにゅう・ひでゆき)
1964年 東京都新宿区に生まれる。
1985年 早稲田大学に入学。
1989年 東日本旅客鉄道に入社。
1992年 東日本JR古河フットボールクラブに出向。
1997年 Jリーグに入社。
2005年 Jリーグ事務局長に就任。
2010年 経営難の東京ヴェルディを再建すべく社長に就任(Jリーグ事務局長兼務)。
資金集めに成功し債務超過を解消。
2011年 Jリーグを退社し、東京V社長に専念。
2015年 現在に至る。
老野生智明●文&写真 text & photo by Tomoaki Oinosho