ロシアW杯の屈辱から1年… ドイツ代表“復活の鍵”を握る万能型「新リーダー」の姿
スキャンダル狙いの地元記者にもスマートに対応 「何を言いたいの?(笑)」
そんななかキミッヒは、「代表功労者である彼らに対して今回のやり方は良くない」と、自分の意見をはっきりと口にした。代表監督が相手であっても、良くないことには良くないと言うべきだし、それがそのまま監督批判ということにはならないと主張する。レーブ監督も、そんなキミッヒの人間性を高く評価している。
試合後のミックスゾーンでも、キミッヒの周りには必ず多くの記者が集まりマイクを差し出してコメントを求める。
「特に前半は文句のつけようのない内容だったと思う。試合開始直後から全員が集中して100%の力でプレーできていた。スタジアムの雰囲気はとても良かったし、僕らは得点を重ねても気持ちを切らさずに次のゴールへ向けてプレーすることができた。もちろん、まだすべてがパーフェクトというわけではないし、スピードに欠けた局面もあった。でも素晴らしい試合だった。自分たちのアイデアをしっかりと実行することができた。
大事なのは、自分たち選手が代表でサッカーができることの意欲、このチャンスをつかんでみせるという野心を見せていくことだ。代表選手の若返りという状況をチャンスと捉え、スタメンで出る選手も、途中から入ってくる選手も全力でアピールしようとしている。今日だったらユリアン・ドラクスラーやティモ・ヴェルナーがそうだったよね。どの選手も素晴らしいクオリティーを持っている」
ドイツ人記者にもいろんな人がいる。サッカーのことを純粋に聞き出そうとする人がいれば、スキャンダルを狙う人だっている。「トニ・クロースが帯同していなかったこの2試合で、中盤はとても機能的でバリエーションがあって良かったと思うが?」という多少挑発的な質問に対しても、キミッヒは動じることなく「何を言いたいの?(笑)。自分たちがどんなプレーをしようというのはかなり細かく準備してきたし、それが大部分で上手くいったということだよ」と、スマートに対処してみせる。
あるいは「マッツ・フンメルス、トーマス・ミュラー、ジェローム・ボアテングがいなくなったことの影響はもうない?」と改めてコメントを求める人がいる。ちょっと考えてからキミッヒは、違う視点を提示した。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。