岡崎慎司がレスターで愛された理由 英国に美しく順応した「常にタンクを空にする男」
マフレズが呟いた一言 「シンジがいなければ勝てないよ」
無論、このシーズンに大爆発したヴァーディが、トットナム所属のFWハリー・ケインと激しい得点王争いを演じながら24ゴールを奪ったこと、また17ゴール10アシストという驚異的な数字を記録し、プレミアの最も権威あるMVPであるPFA年間最優秀選手賞を受賞したMFリヤド・マフレズ(現マンチェスター・シティ)、そしてまさに“天才的”なインターセプトを中盤で重ねて翌シーズンにはチェルシー移籍を果たし、世界一のフランス代表にも名を連ねたMFエンゴロ・カンテの活躍は目覚しかった。しかし、あの岡崎の試合開始早々からエンジン全開で飛び出すように走り続けたプレーが、レスターの奇跡の起爆剤になったことは間違いない。
岡崎が入ると、レスターにスイッチが入った。ファンはそれをよく知っている。その一瞬、一瞬に全力を尽くす岡崎がいたことで、他の選手もその献身性につられるようにボールを追った。岡崎の足がもつれたら「今度は俺の番だ」と、ヴァーディが、マフレズが中盤に下がった。MFマーク・オルブライトンはいつも岡崎と一緒に走って、相手の最終ラインを辟易とさせた。カンテは中盤の底で岡崎のように走りまくって、相手の攻撃陣をうんざりさせた。あの年、何かに駆り立てられたかのように走りまくったレスターイレブンの中心に岡崎がいた。
そんなふうに己を捨てるようにがむしゃらに走り、チームを助けた岡崎だから、当然、チームメートにも愛された。
今季から王者シティに移籍した“魔術師”マフレズはインタビュー嫌いで有名で、大抵の場合、プレスを無視して記者の囲み取材が許されるミックスゾーンを素通りした。しかし昨季に怪我で岡崎の欠場が続くと、日本の報道陣に「ノー・シンジ、ノー・ウイン」(シンジがいなければ勝てないよ)と話しかけてきて、我々を驚かせた。
もう1人のエース、ヴァーディは本当に強面で、いつも仏頂面で記者団の前を通り過ぎたが、岡崎が囲みに応じているところに出くわすと「こんにちわ!」と陽気に声をかけてすり抜けた。
仲の良いDFクリスティアン・フクスは岡崎の脇腹をくすぐり、主将のDFウェズ・モーガンは優しく日本代表FWの肩をポンと叩いて通り過ぎた。そんなレスター選手の表情にはいつも”苦笑”にも似た、不思議な笑顔が張り付いていた。その苦笑の裏にはきっと、「タンクを空にすることにかけてはシンジに敵う奴はいない」というリスペクトがあったのではないだろうか。
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森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。