長谷部とフランクフルトが追った“二兎の夢” ドイツ人の心を震わせた中堅クラブの情熱
「満足していない」と語るも… 7位でのEL出場権獲得は「挑戦したご褒美かな」
ブンデスリーガ最終節のバイエルン戦では、もう力がほとんど残っていなかったのかもしれない。どれだけ絞り出そうとしても、体も、頭もすでに限界近くに達してしまっていた。それでも選手も監督も、そしてファンも前を向いていつでも勇敢に戦い抜こうとした。クラブの選手層と経営規模を考えると、ELでベスト4、ブンデスリーガで7位というのは紛れもない偉業だ。
長谷部の口から、そっと言葉がこぼれてきた。
「最後の7位のヨーロッパリーグ予選からっていうのは、挑戦したご褒美かなって感じている」
本来、リーグ戦でEL出場権が与えられるのは5位と6位のチームだが、もう1枠を争うDFBポカール決勝にCL出場権を獲得しているバイエルン(リーグ優勝)とRBライプツィヒ(リーグ3位)が進出しているため、7位のフランクフルトにEL出場権が与えられることになった。とはいえ、今季の彼らは間違いなく、それにふさわしいだけの戦いをしてきた。「ほぼフルで駆け抜けてきて、感じるものはすごく大きかったと思う」と、長谷部も今シーズンの充実ぶりを語る。その表情は、とてもすっきりしているように見えた。それでも最後に「満足まではしてないですけど、すごく実りあるものでしたけどね」と言うのが彼らしい。長谷部にとって、満足はまだ先にあるのだ。
タイミング良くミックスゾーンに姿を現したフランクフルト代表取締役のフレディ・ボビッチ氏を捕まえて、そんな長谷部について尋ねてみたら、「マコトは本当に素晴らしいシーズンを送ってくれた。本物のリーダーであり、素晴らしいスポーツマン。毎年、年を重ねているのに毎年良くなっている。上質のワインのようだね」と目を細めた。味わいがどんどん出てきている。
長谷部とフランクフルトは来季、どんな熟成を見せてくれるのだろうか。選手も入れ替わるだろう。補強が上手くいくかどうかは分からない。それでも期待したくなるものが、このクラブにはある。ヨーロッパを、情熱とともに駆け巡るフランクフルトをまた見たい。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。