長谷部とフランクフルトが追った“二兎の夢” ドイツ人の心を震わせた中堅クラブの情熱
フランクフルトは“本気”で、EL制覇とブンデス4位以内でのCL出場権獲得を狙った
勝ち残っていくためには、それこそCL出場チーム並みの選手層が必要だが、CL出場並みの収入にはならない。この矛盾の中では多くのクラブが、現実的な路線をまず取ろうとするのも不思議ではない。だが、そうした条件下にありながら、本気でEL優勝とブンデスリーガでの来季CL出場権獲得を狙っていたのがフランクフルトだった。
ELグループステージでは、ドイツ勢初となる6戦6勝。スタジアムは常に超満員。アウェーにも大勢のファンが帯同した。インテル(イタリア)とのラウンド16第2戦では、アウェーになんとヨーロッパ記録となる1万3500人のサポーターが現地入りした。
どこまでできるかは分からない。それが正しい判断だとは言えないのかもしれない。だがフランクフルトは、行けるところまで走り続ける決断を、覚悟を決めた。元日本代表MF長谷部誠は終盤、常にそのことを口にしていた。
「自分たちの目標であるCLというところを考えれば、今日勝ち点3を取るというのは絶対必要だと思っていた。まだまだ自分たちの甘さというのを感じている。もう一回自分たちの足もとを見つめて、自分たちの良い時というのを取り戻していかないといけない」(4月14日・アウクスブルク戦後/1-3)
「もちろん、両方獲りに行きたい。リーグはCL圏内だし、ヨーロッパリーグは行けるところまで。どっちがというのはね、今の自分たちにはない。シーズン最後に来て、リーグもヨーロッパリーグも両方こういう立ち位置にいられるというのは、本当に願ってもない、素晴らしいことだと思う。身体的にもきついはきついんですけど、本当に楽しみたい」(4月22日・ヴォルフスブルク戦後/1-1)
「いない選手じゃなくて、いる選手でどう良く戦うかというところで、前半なんかは非常に良い形できていたと思う。これだけ多くの試合をしていれば、怪我人も出場停止の選手も増えてくる。本当にここは総力戦だなと思う。 最後やり切りたいなという気持ちが強いですね」(5月2日・チェルシー戦後/1-1)
「(ELとブンデスリーガの)どちらかに絞るというのははっきりいって、今こう振り返ってもできなかったと思いますね。やっぱり両方チャンスがあったわけだし、ヨーロッパリーグは結構、リーグとは違って自分たちの良い戦いができていた」(5月12日・マインツ戦後/0-2)
「『二兎を追う者は一兎をも得ず』と、自分たちはチャンピオンズリーグも、そしてヨーロッパリーグも両方追っていたなかで、その二つを両方とも獲ることはできなかったけど、その二兎を追わないと感じられなかったことというのは、今すごい感じている。なかなかそれを追えるチームというのはないし、自分たちが、フランクフルトみたいなチームが、これだけの選手層でそういうところにチャレンジした意味というのを考えないといけないと思う」(5月18日・バイエルン戦後/1-5)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。