バイエルン最強コンビが刻んだ美しき時代 7連覇の歓喜と涙に彩られた「夢のような終幕」
今季限りで退団のロッベン&リベリー、フランクフルトとの最終節で揃って惜別弾
「まるでハリウッド映画のエンディングのようだった」
隣にいたドイツ人記者は、元オランダ代表MFアリエン・ロッベンと元フランス代表MFフランク・リベリーのラストマッチをそのように表していた。
5月18日に本拠地アリアンツ・アレーナで行われたブンデスリーガ最終節フランクフルト戦。この試合を最後にバイエルン・ミュンヘンと別れを告げるラフィーニャ、ロッベン、リベリーの3人には試合前に記念品の贈呈が行われ、スタジアムからは大きな拍手と声援が送られた。ウォーミングアップ時に姿を現した時には大型スクリーンにこれまでの勇姿が映し出され、3人はそれぞれ足を止めて映像に見入っていた。自らのこれまでの軌跡に思いを巡らしていたのだろう。ロッベンは何度も拍手をファンに返し、リベリーはこぼれる涙をそっと拭っていた。
3人の功労者。特にロッベンとリベリーの2人はそれぞれ10年、12年にわたってクラブの主力として活躍してきたレジェンドだ。2007年にマルセイユから移籍してきたリベリーと、09年にレアル・マドリードから移籍してきたロッベンは、類稀なスキルと相手が反応することもできないスピードで、当時のブンデスリーガに別次元のサッカーをもたらした。バイエルンだけではなく、ブンデスリーガのレベルを変えたと言える2人なのだ。そんな彼らも現在ロッベンが35歳、リベリーが36歳。次のステージへ向かう時期が来てしまった。
最終節、バイエルンを率いるニコ・コバチ監督はベストメンバーをピッチに送った。ロッベンとリベリーの名前はスタメンにはない。相手はUEFAヨーロッパリーグ(EL)、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場の可能性を残すフランクフルトだ。そして自分たちも、優勝争いの真っ只中にいる。どちらも勝ち点が必要な大事な一戦だ。2人がスタメンから外れるのはしょうがないことだと、ファンも分かっている。それでも願った。偉大なる軌跡を歩んできた2人の最後の雄姿を見たいのだ、と。
3-1とリードして迎えた後半16分、リベリーがまずピッチサイドに立った。スタジアム中のファンも続々と立ち上がり、拍手の渦が広がっていく。スタジアムDJの弾かれた声にみんなが声援で応えていく。そしてその6分後、今度はロッベンがピッチへ足を踏み入れた。同じようにスタンディングオベーションで、同じように大声援でファンは英雄を迎えた。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。