南野拓実、オーストリア“5連覇”と苦闘の日々 常勝軍団で今季14得点を決めている価値
ザルツブルクからステップアップする選手以上に多い、“消えていく選手たち”
選手は誰でも試合に出続けたいと願っているし、試合に出続けることで自分のリズムを高めていくことができるのも確かだ。だが自分では納得のいく良いプレーをしていたと思っていても、さまざまな理由でスタメンを外されることもある。
ちょっとしたミスが原因でポジションを失うこともあれば、ミスを怖がって自分のプレーを出せず、メンバーから外されてしまうケースだって普通にある。日本代表に招集されれば、欧州とアジアの往復は想像以上に選手の肉体や精神を酷使し、疲れは簡単に取れない。選手から見れば理不尽な采配かもしれないが、あえてスタメンから外すことで、選手のフラストレーションからポジティブなエネルギーを引き出したいという、監督によるチームマネジメントが優先される場合もあるだろう。
ザルツブルクからキャリアアップを果たしていく選手がいることばかりがクローズアップされがちだが、同じくらい、いやそれ以上に人知れず姿を消していく選手が多いことも忘れてはならない。メンバーはどんどん入れ替わり、常にふるいにかけられる。それでも成長し続けていることを証明できなければ、あっという間に放出リストに名前が載ってしまうのだ。
そうした状況下で南野は、5シーズンにわたってコンスタントに出場機会を得て、チームの勝利に貢献し、貪欲にさらに上を目指し、そして今季も公式戦44試合に出場し、14ゴールをマークしているのだ。ELでは貴重なゴールを何度も決めて、ベスト8進出に大きく貢献している。南野はたくましく、したたかに、折れることなく歩んでいく。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。