リバプールに“神風”は再び吹く 時を超え「アンフィールドの魔物」が起こす奇跡

第37節レスター戦で決勝ゴールを挙げたDFコンパニ【写真:Getty Images】
第37節レスター戦で決勝ゴールを挙げたDFコンパニ【写真:Getty Images】

試合前日にリバプールの選手が宿泊先ホテルで見たマンCの勝利

 こうした必死の思いには、試合前日に行われたマンチェスター・シティのプレミアリーグ第37節レスター戦の結果も影響したはずだ。ホームとはいえ、優勝の重圧でシティ・イレブンはガチガチだった。しかし主将ヴァンサン・コンパニのワンダーゴールで1-0の勝利をつかみ取った。

 わずか1敗しかしていないというのに、このコンパニの一発で今季リバプールの自力優勝の望みが完全に絶たれていた。

 こんなに素晴らしいプレーをし続けて、勝利を積み上げているのに、ひょっとしたら今季も無冠に終わるかもしれない――。そんな切実でまさしく切羽詰まった不安が、“レッズ命”のサポーターたちの心の中に暗雲のように広がったのは間違いない。全くもって理不尽な話だ。しかしそれだからこそ、ほんのわずかといえども、自力で未来が切り開けるこのバルセロナとの準決勝第2戦に願いを集中させたのだ。

 リバプールOBで元イングランド代表FWダニー・マーフィーが試合後、「スカイ」の番組で明かしたところによると、選手団も宿泊先のホテルでシティ戦を観戦したという。リバプール前監督のブレンダン・ロジャースが率い、一桁順位を勝ち取ったクオリティーのあるレスターなら、もしかしたらジョゼップ・グアルディオラが率いるシティから勝ち点を奪えるかもしれない。そんな望みを持って試合を見たことだろう。しかし無情にも、バルセロナ相手に3点差をひっくり返してCL決勝進出をもぎ取ることに比べたら、ささやかでさえある小さな奇跡は起こらなかった。

 その翌日、選手はどんな気持ちでバルセロナ戦に向かったのだろう。うなだれる気持ち、もしくはすでに気持ちが折れてしまった状態で試合に臨んだとしても不思議ではなかった。

 しかし結果は、前述のマーフィーが「誰をマン・オブ・ザ・マッチに選んでいいのか分からない」と語った見事なチームパフォーマンスを見せての4-0大勝。一瞬足りとも全く手を抜かず、最後までバルセロナにプレスをかけ続けたあのリバプール・イレブンのエネルギーは、どこから湧き出たのか。

 それはやはり、あの赤く熱く燃えたぎった大観衆から注入されたとしか言えない。それしかない。

 逆にバルセロナはあれほど圧倒的優位な立場に立ちながら、あの大観衆の異様な熱気と明らかな敵意に飲み込まれ、その挙句、リバプールの本望だった体力勝負の試合に巻き込まれてしまった。

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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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