香川真司は「今も愛されている」 失意のダービーに見た“ドルトムント英雄”の足跡
2人の退場者を出し、ドルトムントサポーターの怒りが爆発
試合が始まると、楽しむどころか展開の凄さについていけなくなった。ドルトムントがゴールを決めたかと思ったら、ビデオ判定でシャルケがPKを獲得。これで同点になったかと思ったらCKからシャルケがさらに加点。スタジアム内はヒートアップしていく。
ピッチ上では、1対1の競り合いがどんどん殺伐としたものになっていった。ピッチ上の選手が、自分たちをコントロールできなくなっていく。後半、1点を追うドルトムントが攻撃的な布陣でギアを上げようとした瞬間にマルコ・ロイスが一発退場となり、さらに5分後にはマリウス・ヴォルフにもレッドカード。怒りを爆発させた上階のファンから飛んできた飲み物のコップが、隣に座っていた記者を直撃した。激怒する記者が「昨年もあったぞ!」と、誰とも知れぬ相手に憤慨する。
2人少なくなりながらも、ドルトムントは1-3で迎えた後半39分にアクセル・ヴィツェルが1点を返す。だがスタジアムが沸き上がったその直後、シャルケのブレール・エンボロが冷や水をどさっとかけるような追加点を挙げて、ドルトムントは2-4で敗れた。
サッカーって、残酷だ。膨らみかけた希望をごっそりと削ぎ落としてしまう時がある。悲しみに押しつぶされ、憤りが爆発しそうになる。ドルトムントファンからしたらそうだろう。でも、サッカーって痛快でもある。シャルケファンからしたら、そうだろう。だって今まで全く上手くいっていなかったのに、突然ものすごい好試合を見せてくれたりするのだから。優勝争いをしているライバルに、痛快な邪魔をしてみせた。
試合後もそれまでの熱量が漂うピッチを眺めながら、ふと香川真司はこの空気の中で戦い、そして活躍していたんだなと改めて思った。2010-11シーズン、ダービー初参戦となったシャルケでのアウェー戦でいきなりの2得点。15-16シーズンにはダービー2戦連続ゴールを決めて、ドルトムントファンを熱狂させ続けた。
香川のゴールシーンは、今でもダービー前になると繰り返し映像が流されている。試合前に話を聞いたハネス、フェリックス、イギョスの3人も、当たり前のように香川のことを語ってくれた。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。