ドイツ代表を覆う異様な空気感 「W杯の悪夢」と「世代交代」の先に希望を見出せるか
ロイスが放つ危機感 「スピードをもっと上げないと、もっと動かないと」
「うーん、勝てなかったのは残念だ」
「でも今日は、日曜日の(EURO予選の)オランダ戦に向けたウォーミングアップだから大丈夫!」
その言葉を今、すんなり信じられるような人はたぶんいない。何より、そんな言葉を求めてもいない。試合前にどれだけ演出を凝らそうと、スタジアムDJが声高に叫ぼうと、ファンが見たいのは、そこじゃない。エンターテイメントを見に来たわけではないのだ。
「ビルト」紙は「これほど静かな代表戦は今までにない」と、スタジアムの雰囲気を批判的に書いていたが、ファンがこの試合に求めたのは希望だった。この試合に彼らは、どれほどの希望を見出せただろうか。試合後、観客席からは多少のブーイングとまばらな拍手が起きた。まだファンも評価に困っているようだ。応援したい。心から叫びたい。でも、俺たちが見たいのはこれじゃない――そんな気持ちが交錯しているように感じた。
ロシアW杯前、どんな試合の後でもレーブ監督は「本番にはしっかりと調整して間に合わせるから大丈夫」と自信に満ちた顔で語っていた。選手もスタッフもファンも、少しの修正でまた上手くいくと信じて疑わなかった。でも、大丈夫じゃなかった。ここ最近は「大丈夫」「問題ない」という言葉を久しく聞かない。まず今、自分たちの取り組みへ手応えを感じられるところまで、這い上がってこなければならないからだろう。
そう考えると多くのチャンスを作り出した後半のプレーからは少なからずポジティブに捉えられるものがあったはずだ。気持ちのあるプレーも見せた。そんな希望を最も感じさせてくれたのが、新生ドイツ代表の顔であるMFレロイ・ザネであり、主軸を担う存在として期待されているFWマルコ・ロイスだった。
ロイスは試合後のテレビインタビューに対して、「僕らはドイツ代表だ。もっといいプレーを見せないと。チャンスは作ったかもだけど、勝たないといけなかった。(次のオランダ戦に向けて)スピードをもっと上げないと、もっと動かないと。裏への動きを見せなきゃチャンスも作れない。僕らは前を向いてやっていく」とはっきりとしたトーンで答え、責任感を背負い込む覚悟を感じさせた。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。