コロンビア代表と“獅子王”バルデラマ 破天荒で魅力的だったパスサッカーの記憶
サッキのACミランより、むしろ先鋭的だったナシオナル・メデジン
バルデラマ以外の代表選手たちが所属していたナシオナル・メデジンが、1989年にトヨタカップで来日している。当時、世界最先端のプレッシング戦法のACミランと延長にもつれ込む好試合を演じた。
不思議なことに、メデジンはミランとまったく同じといっていいモダンな戦術を使っている。FWからDFまでを超コンパクトに縮めていた。壮絶な狭小地帯でのプレス合戦のなか、くぐり抜ける技術ではメデジンのほうがむしろ優れていた。
さらにペナルティーエリアを出てビルドアップに参加するGKレネ・イギータは、今日のフィールドプレーヤー化したGKたちの先駆けでもあり、最先端のはずのミランよりメデジンのほうが先を行っていたと言える。代表監督も兼任していたフランシスコ・マツラナは、メデジンの戦法をそのままコロンビア代表に転用していた。
日本では全く無名だったコロンビアのクラブが、なぜミランよりも先鋭的なサッカーをしていたのかは謎である。アリゴ・サッキ監督が、特設の練習場まで造らせて仕込んだ戦法を真似たわけでない。メデジンの進化はミランと同時に起きていたはずだ。
これは仮説だが、コロンビアのサッカーがバルデラマのようなショートパスをつなぎ倒すスタイルが主流なら、それに対抗する守備はボール周辺に人が集中するプレッシングになる。ボールへ人を集めるなら、ラインを上げてしまったほうがいい。ライン裏があまりに空いているので、そこを使って何かしようとしたのはイギータの独創だろう。計画的に作り上げたというより、自然にそうなっていったのではないか。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。