コロンビア代表と“獅子王”バルデラマ 破天荒で魅力的だったパスサッカーの記憶
独特の風貌をした司令塔、狭小地域をすり抜けていくスタイルの衝撃
第一印象は、それなりに重要なのだろう。コロンビアという国についてなんの知識もなかった私にとって、カルロス・バルデラマという第一印象は強烈だった。
ライオンのたてがみのようなヘアスタイル、しかも金髪。髭をたくわえ、がに股で歩く。あの巨大ゴールド・アフロヘアは海岸の太陽光線のせいだというが、他にあんな選手はいなかった。ぶっ飛んでいたのは見た目だけではない。
半身で敵をブロックし、巧みにボールをスクリーンする。体は大きくないし、リーチもそれほどないのに、ボールの置き方が抜群に上手い。寄せている敵からすると、けっこう近くにボールがあるのに奪えない。ステップワークが素早く、下手に足を出せばかわされてしまう。バルデラマは金色のアフロヘアをなびかせながら、ショートパスを通す。そしてパス&ゴーでリターンを受け、またボールを守りながらショートパスを繰り出す……さらにこれを繰り返す。
受けて、キープして、パス。動いて受けて、キープして、パス。これの連続。サッカーの基本といえば基本で、例えば1970年代の名手、西ドイツのヴォルフガング・オベラートもこんなプレーだったのだが、見た目のせいかロックンロールで破天荒に見えた。
路地裏でやっているサッカーの、もの凄く精度のいいバージョン。遊んでいる、あるいは踊っている。勝つためにプレーしているというより、プレーするためにプレーしている。生きている実感を得るためにプレーしている、そんなふうに見えた。
もちろん、そうではなかったと思う。バルデラマはコロンビア代表のキャプテンで、献身的に勝利を目指して戦っていた。ただ、そのやり方があくまで彼のやり方を貫いていて、あまりにも独特だった。
それしかできなかったのかもしれない。1990年イタリア・ワールドカップに、インディアンのマントのようなイエローのジャージを纏ったコロンビアとバルデラマは、30年も昔からタイムスリップしてきたようなプレーぶりだった。技術の粋を尽くして狭小地域をすり抜けようとするスタイルは、進んでいるのか遅れているのかよく分からなかった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。