ブーイングなきバイエルンのCL16強敗退 ドイツ王者が認めた「自分たちの限界」
リバプールにあってバイエルンになかった“培ってきたもの”への自負
試合後、両指揮官の表情はあまりに対照的だった。自身に満ち溢れた顔で「素晴らしい試合だった」と冷静に振り返るリバプールのユルゲン・クロップ監督に対して、バイエルンのニコ・コバチ監督は言葉数も少なく、「リバプールのほうが上だった。自分たちの限界を見ることになってしまった」と完敗を認めていた。
バイエルンにとって8年ぶりとなる、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ベスト16での敗退。だが、本拠地アリアンツ・アレーナにブーイングは一切なく、挨拶に来る選手にファンから大きな拍手が沸き起こっていたほどだ。マッツ・フンメルスは「今回は正直、ここ数年よりは苦しい敗退ではない。ある意味、順当な負けだ」と語っていたが、この心境にファンも理解を示しているのだろう。怒りよりも、今のチーム状態なら仕方ないという見方のほうが強いのだ。
試合前にはかつての指揮官であるジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)が、「ホームで試合をするんだ。バイエルンが勝つよ」とコメントしていたが、そう感じさせるパワーバランスはなかった。
バイエルンが、欧州トップレベルのクラブと呼ばれていたのはなぜだろうか。
揺らぐことのない自信で自分たちの強みを引き出し、相手の弱みを徹底的に突いていく。相手チームが怯えてしまうほどの圧倒的な威圧感、自分たちが試合を決めるという強烈な意志。リバプールとの敵地での第1戦を0-0で乗りきり、迎えたホームでの第2戦では支えてくれるファンの声援をバックにさらに加速度を上げることができる――はずだった。だが、この日のバイエルンからはそうした姿が見られなかった。
むしろアウェーのリバプールのほうに、そうした空気感があった。試合後の記者会見でクロップ監督は、「ファーストレグを終えて思ったのは、自分たちの仕事をしていこうということだ。(フィルジル・)ファン・ダイクが復帰したことで後ろを任すことができると考えた。だからオフェンシブな布陣で相手にプレスをかけていく、あえてオープンな状態で試合にいった。それが自分たちのプランだった。相手にチャンスを作られるかもしれない。でも積極的にいきたかった」とゲームプランについて語っていた。培ってきたものへの自負が、そこにはある。
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中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。