サッカー史は間違いだらけ? 勝敗を変えるVAR、“疑惑の判定”なき未来と一抹の不安

人間の限界を機械がサポートすれば、正しい判定が増えるのは間違いないが…

 3つのVAR判定は、いずれも正しかったと思う(キンペンベのハンドはやや気の毒だが)。逆に言えば、もしVARが導入されていなければ、少なくともユナイテッドはラウンド16で敗退していた。ポルトとアヤックスも勝ち抜けなかったかもしれない。ベスト8進出を決めた4チームのうち3チームは違っていたかもしれないわけだ。

 サッカーには疑惑の判定が付きものだった。歴史を振り返ってみても、不運な判定で敗退したチームは数知れない。VAR判定が導入されたおかげで、より公正なジャッジができるようになったのは良いことのように思える。一方で、やたらとVAR判定で試合が決まっているのを見ると、今までの判定は間違いだらけだったのではないかとも思えてくる。

 人間の目は、あまり信用できないものなのだ。DFとFWが交差している場合のオフサイド判定などは、普通に目で見る限りほぼ間違えるそうだ。それが自然なのだという。副審はそうした目の錯覚の分を考慮して判断しているという。つまり、自分の目で見たものとは違う判定を下すというややこしい作業を強いられている。そうした人間の限界を機械にサポートしてもらえば、正しい判定が増えるのは間違いない。

 しかしながら、それは一方で従来の判定に対する否定でもある。人間の目で見て分からないものは仕方がないという従来の基準は崩れ、機械で検証された事実のみが正しいという新しい基準に変わる。少なくとも人間が見えていたファウルに、機械に見えたファウルが加えられている。次々とVARで判定が覆るさまは、判定精度において人間は機械に敵わないと証明しているようだ。

 機械が得意なことは機械に任せればいい――これも一つの考え方だと思うが、人間だけが仕切ってきた領域に機械が入り込んできて何が起こるのか。もう少し様子を見る必要があると思うし、本当にそこまでやるべきなのかという不安もある。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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