南野拓実、敵将も“想定外”のジョーカー起用で貫いた闘争心 「1対1で絶対に負けない」
交代で入った選手が競り合いで負けると「チームに迷惑がかかる」
思い出したくもない苦い経験をしたのが、今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)プレーオフのレッドスター(セルビア)戦だ。アウェーでの第1戦を0-0で終えたザルツブルクは、ホームでの第2戦で2-0とリードしていた。試合内容では完全に主導権を握っており、誰もがこのまま勝利を挙げて念願の本戦出場だと思っていた。ところが後半20分に一瞬の隙をつかれて失点すると浮き足立ってしまい、その1分後にセットプレーから同点弾を奪われ、アウェーゴールルールで敗退を喫してしまった。
「緊張感を失わない。1ミリも余裕を与えない。1失点が次の失点につながる可能性があるんだ」とローゼ監督は語っていたが、だからこそブルージュ戦では、途中交代の南野の働きぶりが重要だった。後半18分から投入された南野は、FWハネス・ボルフとの交代でトップ下の位置に入ると、最初のアクションからアグレッシブにプレスをかけていく。
試合後のミックスゾーンで、出場する前にまず何を大事にしようと思って試合に入ったかと質問をすると、南野は即答した。
「まず守備ですね。中盤の守備のところで1対1で絶対に負けない、というのを意識していました」
その言葉どおり出場から3分後、南野は中盤で相手選手の前に体を入れてボールを奪い取った。このシーンはファウルになったが、「ああいったところでね、戦う選手というのを見せないといけない。ああいう時間帯だと交代で入ってきた選手が(競り合いで)負けると、チームに迷惑がかかる」と、あの場面のチームにとって何が大切か、何が求められているかを体現してみせた。これができなければ、監督に信頼してもらえるはずもない。
後半35分過ぎ、なんとか1点を返して試合の流れを強引にでも引き寄せたいブルージュが、ボールを支配する時間が続いていた。ローゼ監督はその空気を感じ取った。引いてはダメだ、ここからまた精力的にプレーしていかないと――。必死に大きなジェスチャーで選手を鼓舞し、観客席のファンにもっとチームを応援してくれとアピール。その姿にファンは応えた。大きな声で、大きな拍手で選手をサポートする。
スタジアムの雰囲気が変わった。選手の動きもまた活発になってくる。プレスの動きが鋭くなり、相手にボールを運ばせない。そして、アディショナルタイム4分。試合を決定づけるゴールが生まれた。相手サイドバックの横パスを南野が上手くインターセプトすると、そこからドリブルで持ち運び、ペナルティーエリア内のダブールにパス。ダブールがしっかりとエースの責任を果たすゴールを決めた。
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中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。