「アジアのバルサ」から「アジアのレアル」へ 日本代表が中東の地で見せた新たな姿
アジア杯の日本は相手が嫌がる試合の形に持ち込んでいた
レアルはバルサほど2局面に特化しておらず、4局面すべてに優れた“全方位型”なのだ。2局面ではバルサに劣り、被ポゼッションではアトレチコほどではなく、カウンターは世界一だが、リバプールと比べてどうかは微妙。しかし、相手の得意とするゲームを壊してしまえばレアルに少しのアドバンテージが残る。その点でレアルには不得手がなく、例えば相手にボールを支配されればまず負けるバルサとはそこが違う。
アジアカップ2019の日本は、相手が嫌がる試合の形に持ち込んでいた。自分たちがボールを保持したほうが良い相手には保持し、相手に持たせてしまったほうが有利なら持たせてしまう。圧倒的に勝つわけではないが、僅差の勝負を確実に勝つ。というより、相手が負けてくれる。なので、今回は「アジアのレアル」という趣だった。
しかし、あくまで「アジアのレアル」(まだ誰もそう呼んでいないが)であって、本物のレアル、スーパータレント大集合のレアルとは比べられない。同じく“全方位型”で、どう転んでも強かった2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)のフランス代表に比べてもずっとスケールが小さい。「アジアのバルサ」が本物のバルサやスペイン代表と比較の対象でなかったのと同じだ。
W杯に出れば、日本は僅差の勝負を制していかなければならず、4局面でそれなりの力があり、相手や状況に応じて戦い方を選択する能力は必ず要求される。仮にベスト4以上を狙うなら、日本は何かに特化できないと厳しい。4局面そこそこでは、強力な相手と当たった時に武器がなさすぎるからだ。
ただ、現状で日本が狙うのはベスト16であり、あわよくばのベスト8だろう。そのための戦い方として、アジアカップは格好の訓練の場になっていた。W杯への布石という点で、上手くアジアカップを使えていたのではないか。
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(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。