J2徳島の井筒陸也、24歳でプロサッカー選手を引退 「人生を懸けた勝負」で志すもの

原動力は怒り、井筒陸也が目指す世界

――とはいえ、クラブにしても選手にしても、これまでにさまざまな成功体験を経て今があるからこそ、価値観を簡単には変えられないということもあります。問題意識そのものがない、ということでもあるのかもしれないですが。

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「サッカー関係者の間では、勝つための方法論として、たとえば『良い選手の獲得』『新しい戦術』『選手の身体的コンディション』『クラブの設備』といったことがよく話されているんですが、どうも表層的な部分だけに終始してしまっているように感じるんです。良い選手を獲れるかどうかの話でいうと、その選手が将来的にどうなるかは分からないという視点が欠けている。ピッチ上で発揮する能力の話だけではなく、本当にこの先も努力を続けられるのか、良い人間性を持っていて苦しい時にチームのためになれるのか、というようなパーソナルな部分まで考えられているのか、と。

 言葉が正しいかは分かりませんが、こういう『精神』みたいなところが、勝敗とスポーツの価値に大きく関係しています。だからこそ、そういう部分をしっかりと評価したり、育てたり、考えていくことが必要なはずです。それなのにサッカー界、スポーツ界全体の現状としては、その部分にあまり関心が向いていない。それを実感したからこそ僕は怒っていて、アクションを起こしたわけです」

――怒りが原動力になっているんですね。

「そういった視点がないことで不幸になっている選手が多いのだとしたら、それは悲しいことですから。それを解消することも『勝利の追求』の一部だと思います。『それはだめだ』と、ちゃんと声に出せるような世界でないといけないはずなんです」

――どこかで誰かが声を上げて、意識を変えないといけない、と。

「選手として良い給料をもらって、良い生活ができていれば、どこか現状に妥協しながらやっている人も多いと思うんですよね。でも、僕はそこに憤りを感じている。自分の大事にしている価値観はそうじゃない。表層的ではない、もっと大切な価値観が見えたからこそ、僕は決断できたんです。憤りを言語化して、キャリアとしてデザインしていく能力が僕にあったのかは分からないですけど、今回はそれが上手く結びついた。人はそれぞれ、何かしらに憤りを感じているけど、それを自分のキャリアに結びつけるってすごく難しいですからね」

――勝利の追求の先には、いったいどのような世界を思い描いていますか?

「僕が言っている『勝利の追求』というものを、選手や指導者だけでなく、マネージャーなどチームに関わるすべての人が考えられるように変えていきたいです。そうなれば、たとえば、マネージャーが水を汲んでくれる行為に対して『あなたもチームの勝利に直結しているんだよ』と声をかけることができるはずです。それなのに、今のサッカー界ではそういうことが言いにくくなっている」

――どうしても綺麗事だと捉えられてしまう。

「そうです。でも勝利の中にはどんな要素があるのか、みんなが広い視野を持って考えれば『あなたがやっている(プレー以外の)行為にはこんなにも価値があるんだ』と、ちゃんと言うことができる。そうなれば選手も、指導者も、マネージャーもみんなが幸せになれる。もしかしたら、今まではスポットライトが当たらなかった人を高い給料で雇うことができるかもしれない。そして、その人が家族を養うことができるかもしれない。そんな未来をイメージしています」

――そういえば、去年2月に始めた井筒さんのブログの最初の投稿は『「結果がすべて」なんて大嘘』というタイトルでした。あの記事の内容も「勝利」というものについて深く考えていて、その姿勢は今も一貫していますね。そして、これからはさらなる「勝利の追求」に取り組んでいく。最近の言葉でいうと“勝利のアップデート”と言えるかもしれないですね。

「そうですね。僕の大学の先輩に(元日本サッカー協会会長の)長沼健さんがいます。これも成山監督から聞いたことですが、その長沼さんの言葉で『勝利への道の探索が、そのまま人間性の追求につながっていることをいつまでも信じていたいと思う』というのがあって、僕はこれにすごく共感したんです。勝利とはなんなのかを真剣に、本当の意味で考え、探索していかないと人間としての成長も起こらない。ただ練習するだけ、能力の高い選手が偉いというような話だと人間性の追求にはならない。もっと視野を広げながら考えることで、初めてスポーツの価値が生まれると信じています」

<Profile>
井筒陸也(いづつ・りくや)
1994年2月10日生(24歳)。関西学院大学の4年時にキャプテンとして全日本大学選手権、総理大臣杯、関西学生リーグ、関西学生選手権すべてで優勝し、史上初の単独四冠を達成した。2016年にJ2徳島ヴォルティスに加入。プロ3年目のシーズンを終えた2019年1月7日、契約満了をもって退団すると発表された。今後は株式会社Criacao(クリアソン)で働きながら、社会人の関東リーグ2部Criacao Shinjukuでプレーする。ブログ「敗北のスポーツ学(https://note.mu/izz_izm)」は開始当初からビジネスマンなど幅広い層から注目を集めた。また、18年にJリーガーが中心となったオンラインコミュニティー「Ziso.(ジソ)」を立ち上げ、創設メンバーの一人として活動している。

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(石川 遼 / Ryo Ishikawa)



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