日本サッカーを変えたオフトジャパンの快挙 アジア初制覇が生んだ熱狂と他国の警戒心
「魂を込めた」カズ、日本を救った劇的な決勝ゴール
一方、同時刻開催の裏カードは、北朝鮮が先制するもUAEが残り5分で逆転に成功。だが、ここで柱谷哲二主将は「逆に絶対に勝たなくてはいけないという気持ちになれて良かった」と振り返る。そして0-0で迎えた後半40分、日本は井原正巳が裏に抜け出そうとする三浦知良(カズ)へアウトにかけたスルーパスを送る。相手に当たりコースが変わったボールはカズの足もとにこぼれ、思い切り良く右足を振り抜くとニアサイドを抜いた。グループリーグ敗退の危機から土壇場で引き寄せた勝利と首位通過。さすがにこの時のカズは興奮していた。「魂を込めた」というシュートの行き先を、自身は逆サイドだと認識していた。
しかし紙一重でグループリーグを首位通過した日本だが、続く準決勝でも再び窮地に追い込まれる。開始1分で中国に先制を許し、後半12分に2-1と逆転に成功するが、その3分後にGK松永成立が一発レッド。同25分には同点弾を喫してしまった。
だが、ここでチームを救ったのが、当時スーパーサブとして結果を出し続けていた中山雅史だった。「僕が出るのは、便秘と下痢の時だから」というジョークが有名になったが、またも交代出場すると福田正博のクロスを頭で叩き決勝ゴールを奪うのだった。
決勝戦の相手は、3連覇を狙うサウジアラビア。オフト監督は、好調な中山のスタメン起用も考えたという。しかし準決勝で退場した松永が使えない以上、「もし代わりに出る前川和也に何かあった場合は、中山をGKに」との腹案があり、控えに残した。
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加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。