日本代表DF吉田麻也が得た幸運 “クロップ流”で磨かれる世界レベルの強度
アラダイスの守備的戦術「ドロップ10」に代表される英国人監督の不人気ぶり
それに加えて、昨今の英国人監督の評判は芳しくない。プレミアの格闘技さながらのフィジカルなサッカーに対し、気迫を重んじすぎて肝心の戦略がないというのだ。今もロングボール主体の前時代的なサッカーを展開するチームは、大抵英国人監督の指揮下にある。
しかも、そのサッカーの根本が非常に守備的だ。「負けないサッカー」と言えば聞こえもいいが、アラダイスがこの手の英国人監督の象徴的な存在だろう。彼の戦術はいわゆる「ドロップ10」と呼ばれ、センターフォワードを含むフィールドプレーヤー10人全員に守備の負担を求めるもの。まずクリーンシートを狙い、相手をゼロに抑え続けて守備的な競り合いに持ち込み、辛抱強く1-0勝利を目指す。徹底すれば結果も出る。特にアラダイスは残留争いに強い。
しかし、最終的にはあまりにもサッカーに華がないと言われてファンにそっぽを向かれる。ウェストハムやエバートンを退任となった原因はまさにそれで、彼のつまらないサッカーにサポーターが辟易としたのが原因だった。
ヒューズはアラダイスほど守備的ではないが、やはりやる気や規律を重んじる英国人監督の典型的なタイプである。それは今季開幕からの吉田の扱いを見ても分かる。
8月12日に行われた今季のプレミア開幕戦、ホームでバーンリーと0-0ドローを演じたサウサンプトンだが、吉田はベンチにも入らなかった。
もちろん開幕戦後の記者会見で、吉田の不在に関して尋ねた。するとヒューズ監督は、「チームへの合流が遅れた。早くから合流していた選手を優先した」と発言した。
確かに吉田のチーム合流は遅れたが、それでも8月1日には練習に参加しており、ロシア・ワールドカップ(W杯)のベスト16に進出したチームの選手としては、ごく標準的な日程だった。
また本人も英国帰国直前に、自身の公式ツイッターで「開幕まで2週間、猛スピードで仕上げます」とつぶやいており、契約更新した直後だったこと、それに何より今季はメンバー的にもセンターバックのレギュラーが約束された状況だったこともあって、新たなシーズンに対して大いなる意欲を燃やしていた。
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森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。