日本代表DF吉田麻也が得た幸運 “クロップ流”で磨かれる世界レベルの強度
ヒューズからハーゼンヒュッテルへ、サウサンプトンの監督交代が吉田にもたらす好影響
A Famous Victory。直訳すれば“有名な勝利”ということになる。しかしニュアンスを含めて訳せば「その名を轟かす勝利」というところか。すなわち歴史に刻まれるような大勝利だ。
優勝を決める大一番での勝利もそうだが、サウサンプトンのファンならば、公式戦で10試合連続白星なしの大不振に陥っていたなか、アーセナルというビッグクラブ相手につかみ取った12月16日の勝利(3-2)も、そんな“Famous Victory”の一つに数えるに違いない。
ダニー・イングスのゴールで二度リードし、ヘンリク・ムヒタリアンの一撃でアーセナルに二度追いつかれるスリリングなシーソーゲームだった。途中出場のチャーリー・オースティンが、試合終盤の後半40分にチーム3点目となる勝ち越し弾。そして「5分」と表示された長いアディショナルタイムが終わり、試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、セインツ(サウサンプトンの愛称)の本拠地セント・メリーズ・スタジアムに歓喜の咆哮が轟いた。
まるで優勝したかのような騒ぎだった。スタンドを埋めたサポーターは、揃って何度も拳を天に突き上げていた。3万人の喜びが爆発したスタジアムのピッチ上では、サウサンプトンのイレブンがお互いに駆け寄り、肩を抱き合って大きな輪を作ると、嬉しくて仕方がないというようにぴょんぴょん飛び跳ねていた。
その輪の真ん中で、吉田麻也の顔が歪んでいた。抑えきれない涙を堪えているかのような表情だった。今シーズン、溜まりに溜まっていた不満や不安、そんな負の感情が遠ざかる思いだったに違いない。マーク・ヒューズ前監督が解任されて2試合目、ラルフ・ハーゼンヒュッテル新監督のホームデビュー戦だった。
思えば今季の吉田の苦難は、前任監督との折り合いの悪さに起因していた。その葛藤の思いは、この試合から6試合さかのぼったマンチェスター・シティ戦後の談話に表れていた。1-6と大敗したこのアウェー戦の一部始終を、吉田はベンチから眺めていた。
「(シティは)結局なんとなくやって勝てるチームじゃない。選手のクオリティーの差があるのは事実なんで、そこは戦術とハードワークで埋めなくてはいけないですが、まず戦術がはまっていなかったし、フィットネスも明らかに向こうのほうが質が高かった。(ジョゼップ・)グアルディオラは選手一人ひとりを呼んで、個別に細かいコーチングをしている。サイド(のスペースで展開すること)にこだわっているというのは、傍から見ても感じた。その(監督としてのこだわりの)差は、やっぱり相当あると思います」
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森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。