伝統の高校選手権と変わらぬ光景 “強いチーム”が称賛され進まない「選手育成」の現実

今年度大会で97回目を迎えた全国高校サッカー選手権【写真:Football ZONE web】
今年度大会で97回目を迎えた全国高校サッカー選手権【写真:Football ZONE web】

過剰な連戦と参加校の半数が1試合で大会を去る現実

 全国高校サッカー選手権は今年度大会で97回目を迎えた。ただし97年間も年輪を重ねてきたのに、時代に則した変化は見えない。高校生たちは、この大会を目指して3年間膨大な努力を積み上げてきている。ところが壮大なドラマを経て全国への切符を手にしても、参加校の半数が1試合のみで大会を去る。日程も多少のゆとりはできたが、過剰な連戦は相変わらずで、さらに年間を俯瞰すればオフも確保されず、明白な酷使状況になっている。

 日本サッカー協会(JFA)は「選手育成のコンセプト」と題して、こんなメッセージを記している。

「長期的視野に立った選手の育成。これは非常に重要な考え方です。目先のその時々の勝利ではなく、一人の選手が自立期においていかに大きく成長するのかを第一の目的とする」

 一方で、こんなくだりもある。

「日本は世界のサッカーの発展傾向を見続け、海外の強豪から多くを学びながら、自国のシステムを整え、発展を遂げてきました」

 では世界を見渡して、これほどユース年代の全国大会を乱立させる強豪国がどこにあるのだろうか。また強豪校で指揮を執る指導者は、本来日本サッカーの現場を主導するはずのJFAが謳う「プレイヤーズ・ファースト」や「世界の発展傾向を見続け、学び続ける」姿勢を共有しているだろうか。

 数年前に強豪校の監督、スタッフを取材した。ここでは上意下達が徹底され、非効率で長時間の練習が続く。3ケタを超える部員は全員の試合を終えるまで引き上げられず、自分の時間がまったく持てないとの告発を受けたからだった。監督は言い放った。

「ウチは高校サッカーをやっている。別に世界を目指しているわけじゃない。ウチに入ってきて、ウチのやり方を批判するのは良くないな」

 しかし同校からも日本代表選手が巣立っている。彼らが3年間、世界基準を視野に入れた指導者のもとで、適切なトレーニングを続けてきたら、もっと大きく飛躍できた可能性がある。それ以上に、告発した選手は、故障が完治しないまま無理なトレーニングを続けたために、日常生活にも支障をきたす状態に陥り同校を中退した。スポーツ界では矢継ぎ早にパワハラ問題が露呈したが、それはまだまだ氷山の一角で、サッカー界も無縁ではない。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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