岡崎慎司、日本代表への尽きない情熱 レスターの”1トップ”で示した稀有な才能
岡崎がプレミアの舞台で培った“ボールの行方を読む力”
あのヴァーディの背後に、潜るようにして1.5列目に自らを沈め、激しく相手のボランチ、またはCBにプレスをかけ、敵の攻撃の起点を潰しては、味方のカウンターの捨て石にもなる。自らのゴールは二の次として、そんな献身性を前面に押し出して、岡崎はレスター優勝シーズンのレギュラーとなった。
だが、ヴァーディやリヤド・マフレズ(現マンチェスター・シティ)のゴールの露払いとなるあのプレースタイルの選択は、岡崎の苦渋の決断でもあった。FWなら誰だってゴールが欲しい。しかし、あのシーズンがあったからこそ、日本代表FWのプレーの幅はさらに広がったのである。
ブライトン戦後、一通りの話を終えて「あの位置であれだけインターセプトの山を築くのは、岡ちゃんか(リバプールのロベルト・)フィルミーノくらいだね」と声をかけると、岡崎ははにかむように微笑み、「そうですか、それは嬉しいですね」と答えた。しかし、そんなプレミアでも稀少な技術は、あの優勝シーズンを走り抜いて勝ち得た努力の結晶でもある。あのシーズンに遮二無二ボールを追いかけて、プレミアの試合を読む力、すなわちボールの行方を読む力を蓄えたのだ。
そんな岡崎が3年目の昨季、突如としてゴールマシンとなりかけた。その最高潮と言える試合が、2017年12月13日のサウサンプトン戦。日本代表の同僚DF吉田麻也の目の前で2ゴールを奪取し、4-1大勝の立役者となった。
この時点でリーグ戦は、まだ折り返し地点前の第17節。サウサンプトン戦で決めた2ゴールで得点数を「6」に伸ばし、岡崎自身が「夢」と語っていたプレミアリーグ二桁ゴールも一気に現実味が帯びてきた。
1年目、2年目とヴァーディの黒子に徹した岡崎が、3シーズン目にして、W杯を半年後に控えてレスターの主役になりかけていた。しかも「多少、前に残るようにしている」と語ってはいたが、中盤とのつなぎ役をこなし、また守備の負担も抱えたまま、この成績をあげていたのである。
あの時のイメージが、岡崎の中には明確にあるのだろう。プレミアで1試合2ゴールを記録し、そこを土台にハットトリックも、シーズン二桁ゴールも記録してやる――。そんな飛躍のイメージも、はっきりとあったに違いない。
しかし、この後に左足首を負傷。シーズン後半、ピタリとゴールが止まったのは、痛みをこらえての出場が影響したことは言うまでもない。
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森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。