描く逆転のシナリオ 世界一の健全経営を誇るブンデスリーガの海外戦略とは【後編】

海外進出成功に必要な確実性を高める経営戦略

 ブンデスリーガが海外戦略を進めていく上で、競技面での成功はもちろん重要になる。国内最多優勝回数を誇るバイエルン・ミュンヘンは、4季連続でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)ベスト4に進出しており、12-13シーズンにはバイエルンとドルトムントによって、CL史上初のドイツ勢同士の決勝戦が実現した。
 その後も2季連続で、ドイツ勢の出場全4クラブがグループリーグを突破してベスト16進出を果たしている。当然、ドイツのクラブが欧州の舞台で勝ち上がればそれだけ大きな注目を集めることになり、ブンデスリーガの海外進出にとって追い風となる。
 だが他国リーグとの激しい国際競争を勝ち抜くには、不確実性の高い競技面での成功だけを頼りにするのでは十分でなく、確実性を高める経営戦略が必要になってくる。ブンデスリーガはその点を強く意識しながら継続的に取り組み中だ。
 
 3年前、ブンデスリーガがシンガポール事務所を開設したのは、その戦略を象徴するものの一つだ。海外売上高の20%を占めるアジアは、ヨーロッパ以外で売上高が最も成長している市場だ。マンチェスター・ユナイテッド(マン・U)などクラブとしてアジアに事務所を構えることは珍しくなくなったが、リーグとしては初めての試みだ。現地に職員を常駐させ、アジアの市場調査を継続的に行い、現地企業と直接コンタクトが取れる メリットは大きいはずだ。
 
 実際の「商品」、つまりクラブを現地で直接見せることができれば、その魅力はよりダイレクトに伝わっていく。そのためには各クラブの協力が必要になってくる。その意味で最も大きな宣伝効果を持つのは、クラブによる海外ツアーだろう。
 今夏、ドルトムントが日本を含むアジアツアーを実施するのをはじめ、近年ドイツのクラブは積極的に世界各地へ赴いている。ブンデスリーガで海外進出の先陣を切っていたバイエルンは、3年前の冬季中断期間には短期ツアーでインドへ、その半年後、夏のプレシーズンには中国へ向かった。
 ワールドカップイヤーとなった昨年には、ニューヨーク事務所開設のプロモーションでアメリカを訪れ、さらに今夏もまた中国へ のツアーが予定されている。中国でのバイエルン人気はますます高まっており、先日中国市場に向けのECサイトが新たに開設されたことも相まって、熱狂的に迎え入れられることになるだろう。
 だが今や、スター選手がファンに向かって手を振り、テレビに向かってウインクをすれば良いだけの時代ではなくなった。ここで重要になるのが、ローカルファンとコンタクトを続けることだ。
 
 実際、ドイツのクラブは継続的にアジアを訪れ始めている。その最たる例がオフシーズンのキャンプだ。以前は冬季にスペインやトルコが、夏季にスイスやオーストリアなどがキャンプ地の定番だったが、バイエルンやシャルケがドーハで冬季キャンプを行っているのに加えて、ハンブルガーSVとアイントラハト ・フランクフルトもドバイで行うようになった。
 またハンブルガーSVとボルフスブルクが、昨季冬にアジアツアーを実施している。さらにアジア以外でも、レバークーゼンとケルンがアメリカに、シュツットガルトが南アフリカを訪れるなど、その頻度は増している。
 また、キャンプ地の観光協会や旅行代理店と契約するクラブも少なくない。クラブはスポンサーを得ることができ、キャンプ地もクラブの高い宣伝効果を生かしてプロモーションを行うことができる。今後は欧州内だけでなく世界各地でもそうしたケースが出てくるだろう。
 その他の継続的な取り組みとしては、日本でも見られるようなサッカースクールの開設も挙げることができる。クラブの公式スクールを常設させること で一定の宣伝効果が見込まれ、さらに子どものうちから長期的なファンを獲得できるという効果がある。

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