病との戦いさえなければ… “最高のチームプレーヤー”森﨑和幸が愛され続けた理由
城福浩監督も改めて感嘆「ピッチ上で正解を導く能力は今もチームナンバーワン」
「僕には特別な能力は何もない」
森﨑の口癖である。技術にしても「自分よりボール扱いが巧い選手はたくさんいる」とも。確かに、彼はトリッキーなプレーはほとんど見せない。キックはほとんどインサイドキック。プレーぶりもシンプルで基本に忠実だ。だが、本当の天才とはどんな世界でも、難しいことをシンプルに見せつける。
多くの選手が指摘する「ボールを失わない」というスキルにしても、決してフィジカルで相手を圧倒するわけではない。ボールを受ける前から常に周りの状況を把握し、選手たちの技術レベルやスキルを十分に把握した上で最善手を打ち続ける。パスを出した後も決して止まらず、一歩や二歩、動く。そのことで自身がフリーになり、またパスを受ける。ダイレクトや2タッチでボールを動かすことで相手を揺さぶり、味方を気持ちよくさせる。
パス成功率は2016年の95%をはじめとして多くの年で90%台を維持。パス数もチームでナンバーワン、リーグでもトップを争うほどの数字を残し続けたのも、彼がずっとチームにとっての「最善手」を打ち続けたからだ。
「サッカーの専門家としては、彼の良さを(チームの外にいる時でも)分からないといけない。広島の選手たちの能力をカズが引き出しているんだと理解していたつもりだった。ただ、実際に広島で一緒にやってみて、私自身も改めて思いました。本当に凄い。選手たちがやりやすいわけだ、と」
分析能力に定評のある広島の城福浩監督も、こう語る。
「ボールを持っている選手が困った状況になる時、カズが必ず助けてあげるんです。カズがサポートするのは、自分がプレーするためでなく、仲間を助けようと思うから。だからカズは自分でボールを受け、その選手が楽になったらボールを返してあげる。足の速い選手を活かすために裏へのパスを出し、一方のサイドが詰まったら、さりげなくサイドを変える。全てのプレーがチームを楽にするためであり、その判断を瞬時にできる。カズこそ、技術の塊。技術とはこういうものだと、カズのプレーが示してくれる。ピッチ上で正解を導く能力は今もチームナンバーワンです」