長谷部に漲る“情熱”と久保が吐露した“悔恨” 思慮深きニュルンベルクで見た「日本人対決」
悔しさを吐露した久保「決められないと意味がない」
実は試合中のスタジアム内の一室で、そのレビッチとガチノビッチが椅子に座ってモニターを凝視している場面に出くわした。彼らはお互いに一言も発さずに味方の勇姿を見つめ、後半アディショナルタイムに訪れる劇的なシーンを見ても感情を露わにせず、静かにその戦況を把握していた。
後半アディショナルタイム2分、ハラーが起死回生の同点ゴールを決めてフランクフルトが死地から生還した。試合後に長谷部が語る。
「厳しいゲームでした。同点で終わったのは良かったですけども、今後のために、今日の試合を検証して次に生かしたいと思います」
一方、ニュルンベルクの久保は苦虫を噛み潰したかのような表情で声を振り絞った。
「惜しいシュートは2本打ちましたけども、それを決められないと意味がない」
痛み分けに終わった試合から約45分後、マックス・モーロック・スタジアムの周辺は閑散としていた。スタジアム周辺には飲食店や居酒屋が見当たらず、サポーターは早々にその場を後にしてそれぞれの地元へと帰り、酒を酌み交わそうとしているのだろう。
辺りは一層気温が下がり、深々と小雨が降り注いでいる。ニュルンベルク中央駅に着いたら、ビール瓶を割って廊下にぶちまけた若者が周囲の人々から叱責されていた。
駅に併設されたパブで、街の人と話ができた。
「試合終了直前に同点に追いつかれたのは本当に残念。でも、去年2部から1部へ昇格して臨んでいる今季は今のところ、上々の出来だと思うよ(第9節終了現在で18チーム中14位)。なにしろウチは3部にも降格したことがあるクラブだから、一喜一憂しながらも、直近の結果で何かを判断することはしないよ。このクラブはずっと、この街とともに生きていて、それは今後も変わらないものだからね」
この街には思慮深く、静謐な空気が漂っている。弱肉強食の世界であるブンデスリーガでの1FCニュルンベルクの境遇と照らし合わせると、その所作はどこか異質に思える。しかし、かつてこの街の人々が懸命の努力で再興を果たしたのと同様に、彼らは、その慎ましさと内に秘める不屈の意志で、我がクラブを心根で支え続けている。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。