世界的名手と「初速のスピード」 日本サッカーが追求すべき一歩目の速さ
マラドーナもジダンもメッシも… 歴史に名を残す選手は「初速が速い」
サッカーは速さがモノをいう。といっても、100メートル走者の速さではない。ウサイン・ボルトは途中から速くなるが、サッカーでは最初の一歩の方が重要だ。
史上に名を残すスーパースターたちは、だいたい初速が速い。ディエゴ・マラドーナもリオネル・メッシもその点は同じ。ペレ、ヨハン・クライフ、アルフレッド・ディ・ステファノ……遅い選手はいない。ジネディーヌ・ジダンやミシェル・プラティニは特別に速い印象はないが遅くはなかった。
速さは重要だが、もちろんすべてではない。もっと速い選手はいたし、現在でもいるだろう。いずれにしてもサッカーにおける速さは、100メートルや50メートルのタイムで測れるものではなさそうだ。
では、最初の一歩が速い選手とはどんな人なのだろうか。速い選手が皆、スプリンターのような筋肉を纏っているわけではない。ロナウドやマラドーナは太ってからもそこそこ速かったし、クライフは細身だった。メッシは筋トレすらやらないらしい。ネイマールの足もほっそりしている。どうも筋肉の量はあまり関係がなさそうである。
これは想像だが、たぶん体の使い方、筋肉の使い方が違うのではないかと思う。
モロッコに行った時、たまたま合気道を教えているという地元の方と話したことがある。その合気道の先生によると、「モロッコ人は比較的、武術に向いている」そうだ。
「ヨーロッパの人は腰を上手く使えない。腕力だけでなんとかしようとする人が多い。我々の方が体を柔らかく使えます」
日本には古武道の研究者がいる。たまにテレビ番組にも出てくるが、どの先生にも共通しているのは「体を合理的」に使うということだ。ただし、彼らの言う「合理的」は西洋の科学とは違っている。
100メートル走者は地面を蹴ることでスピードを得るわけだが、古武道の名人は移動の時に足で地面を蹴らない。長い距離を走るわけではないので、加速はいらないということもある。加速より初速。確かに動画を見る限り、初速は極めて速い。どうやっているのかは分からないが、体の使い方が違うのだろう。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。