イニエスタが“スーパーマン”になれないJリーグの現実 夢を与える神戸に必要な将来像
世界的名手の獲得とチーム強化の難しさ 明確なビジョンがなければリスクも…
昨年の元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキに続き、今年は元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタを獲得し、Jリーグに一石を投じたJ1ヴィッセル神戸だが、一方でチーム強化の難しさを露呈している。
確かにイニエスタの加入は観客動員に好影響をもたらし、実際に本人もスーパープレーで期待に応えた。だが第24節の横浜F・マリノス戦(0-2)で敗れた途端に負けが込むと、イニエスタは第27、28節と欠場。スタメン復帰した第30節の川崎フロンターレ戦でも3-1とリードしながら、立て続けに4点を叩きこまれてひっくり返された。
新任のフアン・マヌエル・リージョ監督は語った。
「川崎は足もとの優れた選手を揃え、両サイドバックが非常に高い位置を取り、インサイドハーフがエリア内にどんどん入ってくるチーム。いかに相手ゴールの近くでボールを奪い返せるかがポイントで、70分くらいまではできていたが体力的なマネージメントが上手くいかなかった。3ゴールを奪っても勝てないのは厳しい」
最終的に神戸は5人の外国籍選手をピッチに立たせたが、川崎の勢いは止まらなかった。
確かに世界のトップレベルで活躍した名手の獲得は、ファンに夢を与えリーグを活気づけた。一緒にトレーニングを重ね、試合に臨むチームメイトも得るものは少なくないだろう。しかしクラブ内に彼らをどう活かすかという明確なビジョンがないと、逆にチームの成長を止めてしまうリスクもある。
例えば、Jリーグ草創期の鹿島アントラーズは、元ブラジル代表MFのジーコを単なる助っ人としてだけではなく、プロ化を押し進めるクラブへのアドバイザー的な期待も込めて獲得した。もちろんジーコは開幕戦でハットトリックの活躍を見せるのだが、それ以上に身をもってプロのあるべき姿を見せ、それがクラブの礎となった。ジーコのルートで優れたブラジル人選手や指導者を招き、一方で日本人の若い選手に計画的に経験を積ませて、チームのコンセプトも引き継がれていった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。