J1王者・川崎が突入した「黄金のサイクル」 攻守の“隙のなさ”と緻密な未来への投資
札幌戦の反省を生かし、名古屋戦で見せた攻守に隙のない試合
川崎フロンターレは黄金のサイクルに入って来たのかもしれない。
第26節の北海道コンサドーレ札幌戦は、結果的に7-0で大勝したものの、「何点入れられてもおかしくない立ち上がりだった」(鬼木達監督)と、反省材料も少なくなかった。だが翌第27節の名古屋グランパス戦(3-1)は、指揮官が「攻撃から守備への切り替えを強調して入った」と言うとおりに、ハイプレスで相手のビルドアップの起点を潰し、隙のない試合を貫いた。
とりわけ川崎が徹底してプレッシャーをかけ続けたのが、名古屋のMFエドゥアルド・ネットだった。4バックの名古屋は、二人のCBの間にエドゥアルド・ネットが下りてビルドアップの起点となる。思い出すのは春のサンフレッチェ広島戦で、敵将の城福浩監督が当時川崎の中軸だったネットについて明かした言葉だ。
「ネットはストロングポイントだが、それはウィークポイントにもなりうる」
川崎はトップ下の中村憲剛を中心に、家長昭博らもファウルも辞さない厳しいチャージを続けてミスを誘った。とりわけ中村は容赦ない当たりで、足を蹴られたエドゥアルド・ネットが痛がっても、見向きもせずにプレーを続けた。後半が始まると、名古屋はエドゥアルド・ネットの代わりに、もう一人のボランチ小林裕紀が下りるようになったほどだった。
ややもたついた頃の川崎は、ポゼッションでは上回っても、下がった相手にスペースを消され、得点機も小林悠ばかり集中した。小林は一貫して良質なパフォーマンスを続けてきたが、反面簡単なチャンスを逃すことも多く、それがそのままチームの勝敗を左右した。
しかし名古屋戦の途中からは、前線の守備が著しく機能し、その分だけ速い押し上げもできて数的優位を築けている。
例えば、試合を決定づけた3点目もCKからの流れだったとはいえ相手のクリアボールを拾うと、素早くつなぎ中村が左からクロス。ペナルティーエリア内でCBの谷口彰悟が頭で落とし、そこに左SBの車屋紳太郎が走り込み、小林のゴールをアシストしている。要するにディフェンスラインの二人がボックス内に侵入し、フリーで仕事をしたわけだ。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。