ルカクの告白と「リバウンド・メンタリティー」 気持ちの強さは才能以上の財産

ルカクを突き動かしたサッカーが大好きな気持ち

「リバウンド・メンタリティー」という言葉を耳にするようになった。日本代表選手の多くが挫折を経験していて、そこから立ち上がる精神力を持っていたという。

 リバウンド・メンタリティーは傾聴力と主張力が合体したものだそうだ。人の意見に耳を傾けるのと、自分の考えを強く押し出すのは矛盾しているようだが、自己を客観視できる冷静さと、大いなる情熱はどちらも欠かせない要素なのだろう。自分の中で会話し、状況を整理して進むべき道を見出す能力と言えるかもしれない。

 ルカクの場合、情熱の根本に怒りがあった。けれども、怒りだけが情熱を形成していたとは思わない。なぜなら、サッカーはボクシングなど個人の格闘技とは異なるチームゲームだからだ。情熱だけで突っ走ってもたぶん上手くいかない。

 ルカクはゴールゲッターだが、周囲を使うことも上手い。意外と「俺が俺が」というタイプではないのだ。エゴの強いストライカーという人種の中では、むしろエゴイストではない方かもしれない。

 怒りとともにプロになると決意する前から、ルカクはサッカーが大好きだった。6歳から大好きなサッカーへの向き合い方は変わったかもしれないが、もともとサッカーが好きという気持ちがある。それも原動力に違いなく、上手くなりたいという気持ちがサッカーへの理解を深め、チームメイトと協調する大切さも学んでいったに違いない。

 プロのアスリートにとって、気持ちの強さは才能以上の財産だ。その根源が楽しさであっても怒りであっても。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



page1 page2

西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング