「モウリーニョ解任」へ運命は動き始めたか マンUとの“最悪な相性”が生む疑念と確執
幸先良く先制も、ざわつき始めたオールド・トラッフォード
8月10日、2018-19シーズンの開幕戦となったレスターとのホームゲーム。金曜日の夜、他の18チームに先駆けて行われた試合、ユナイテッドは開始早々の前半3分に、ポグバのPKで1点を先制した。
ところがその後、ポゼッションを高めてゲームを支配したのはレスターだった。ユナイテッドは守備に人数をかけ、攻撃は単発のカウンター。ポグバもFWアレクシス・サンチェスも守りを意識した深い位置取りで、1トップのラッシュフォードさえボールの後方に回って守備に参加する。指揮官の方針が、1点のリードを確実に守りながら試合を進めるというのは明らかだ。
こうした展開となり試合が膠着すると、本拠地オールド・トラッフォードを埋めた7万5000人のサポーターは集中力を失い、次第にざわつき始める。まるで「棚からぼたもちのような先制点を与えられたのに、なぜ2点目を奪いに行かないんだ」と至るところで囁き合っているようだった。
前半の終盤、1点リードを突然のように思い出したかのように、一部で有名な「ジョゼ・モウリーニョ」のチャントが起こる。が、スタジアム全体に伝播することなく、尻すぼみのように消えていった。
後半に入っても試合は1-0のまま。相変わらずの展開で、カウンターからようやく2点目が入ったのは後半38分だった。ゴール後、モウリーニョは必要以上のガッツポーズを作ったが、場内はそれほど盛り上がらない。2-1で白星スタートを飾ったものの、結局はこの手堅い守備的なスタイルこそが、モウリーニョ自身を追い込む元凶なのだ。
ユナイテッドの伝統は『攻撃的なサッカー』である。直近の黄金期を築き、このクラブのシンボルでもあるサー・アレックスは、現役時代「3点取られたら4点取り返す」と話し、ゴールにかける執念をむき出しにした。それがあの“攻めダルマ”とも言える波状攻撃を生み、幾多ものゴールを呼んだ。しかもここぞというところでゴールが飛び出した。ドラマティックな試合終了間際の決勝弾、同点弾も数多く、本拠地オールド・トラッフォードは「Theater of dream」(夢の劇場)と呼ばれた。
日本にも、あのスイッチが切り替わるような押し上げとともに始まる怒涛の攻撃に魅せられたファンは大勢いることだろう。全身が総毛立つような超攻撃的サッカー。ところが、その伝統が今や消え去ろうとしている。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。