日本にゾーンディフェンスは浸透しない? “教科書”のようなスウェーデンとの比較論
日本では成り立たない「ハイクロスは跳ね返せばいい」という前提
例に挙げたケースで言えば、スウェーデンが捨てている「1」のスペースにいるSBは、フリーでパスを受けられるので、クラエセンに寄せられる前にハイクロスを放り込む余裕がある。しかし、この位置からのハイクロスならば跳ね返してしまえばいいという前提があるから、こういう守り方になっているわけだ。全体に「待ち」の守備対応で、飛び込んでかわされて事態を悪化させることを避けている。
ところが、日本がこれをやってしまうとハイクロスを跳ね返せずに失点してしまう恐さがある。そこで、このケースならクラエセンをSBにあらかじめつけてしまい、ボールホルダーにはFWのベリが下がって対応するか、MFのラーションが前に出ることになる。クロスを上げさせないための守備になるわけだ。このあたりは守備の前提が違うために、同じゾーンでも守り方が変わってくる。だから、一概に日本のチームがゾーンの守備ができないというわけではない。
ただ、ボールへのプレッシャーを意識するあまり、このケースならクラエセンがボールホルダーに対して食いつきすぎてしまい、フリーのSBにパスを通されたうえに突っ込んでしまったクラエセンは守備ができず、仕方がないのでルスティグが釣り出されるという最悪の事態になっている場面も、Jリーグの試合などで時々見る。
スウェーデンの選手の名前で説明したが、スウェーデンならまず起こらないミスだ。そういう場面を見させられてしまうと、「日本にはゾーンディフェンスが浸透していない」説は当たっていると思う。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。