人種的な多様性と即興的強さ 崩壊リスクも抱えたW杯王者フランスの“諸刃の剣”
「全体」ではなく「部分」が先にあるチーム作り
つまり、チームとしてのプレーモデルが決まっているのではなく選手によって変わる。CFがジルーでなくてムバッペなら、攻撃のやり方は当然変わる。左サイドハーフがFWウスマン・デンベレとMFトマ・レマルでも変わるし、MFブレーズ・マテュイディでも変わる。多様な個性を多様なまま集めている。
おそらくディディエ・デシャン監督が重視したのは組み合わせだ。MFポール・ポグバとムバッペの組み合わせで速攻が打てる、ジルーとFWアントワーヌ・グリーズマンならロングボールを使える、ポグバとカンテの組み合わせなら攻守の役割分担が明確になる……そうやってパーツの性能を確認しておいて、直前になって組み上げる。「全体」ではなくて「部分」が先にあるチーム作りだ。多様性を生かすには、たぶんこれしかないのだと思う。
多様性ではなく均質的なチームの場合は、先にチームとしてのスタイルを決めてしまえる。例えば、スペインの攻撃陣はほとんどが小柄でパスワークの技術の高い選手だった。MFアンドレス・イニエスタが使えなければMFチアゴ・アルカンタラで代用できる。同じタイプの選手が多いので、人を代えてもチームとしてのやり方はあまり変わらない。
一方、フランスは選手が代わると同じ方法は成立しない。逆に言えば、それだけバリエーションはつけられるわけだ。ある意味、パッチワークである。ロシアではアルゼンチン戦でカチッとまとまってチームにできたが、まとまらないまま終わる可能性もあったと思う。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。