強化の鍵は「日本らしさ」を超えること 居心地の良さに安住したらW杯8強には行けない
森保新体制で示した方向性と課題
森保一U-21日本代表監督が、A代表監督も兼任することになった。「日本らしさ」を大事にしていこうという意思の表れだろう。
ただし、「日本らしさ」は代表強化における最大のポイントではない。「日本らしさ」はチームとファンをリンクする非常に大切なものだけれども、それをもって強くなれるわけではないからだ。むしろ、「日本らしくないもの」をどれだけ取り入れられるか、自分たちが持っていない、対抗できない力に直面した時に何ができるか。日本代表の進化の鍵は、むしろそちらにあるからだ。
日本らしくプレーするのは大事だが、強化でより重要なのは従来の「日本らしさ」を超えることである。
均質性の高い代表チームは一体感があり、安定感もあるが、それだけではある程度までしか勝てない。本当に強いのは均質ではない、多様性のあるチームだ。フランス、ベルギー、ブラジル、ドイツ、イングランドは、従来の「らしさ」に異なる能力と個性を加えている。背景に、その国自体の人種的多様性があるのは間違いないが、例えばフランスにおける移民の人口比は20%以下だ。代表での移民系選手の割合は、一般社会とは逆転している。単に社会が多様だから、代表チームも多様になっているのではない。
ある意味、戦略的に多様化を進めてきた国には、均質的なチームが持つ統一感を持たない。そのために、チームをまとめるのに失敗するケースがこれまでに何度も起きているし、これからも起こるだろう。ただ、それでも新しい才能を取り込んでオールマイティ化した強豪国がまとまってしまえば、均質型で対抗するのはかなりの難題なのだ。
均質性の高い日本は、その居心地の良さに安住していたらベスト8には行けない。日本らしさはベスト8への鍵ではなく、ある意味、どこまで日本らしくないかが勝負なのだと思う。日本らしさは大事、けれどもそれだけで越えられないのがベスト8の壁だ。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。