強化の鍵は「日本らしさ」を超えること 居心地の良さに安住したらW杯8強には行けない
「日本らしさ」を再発見できたロシアW杯の意義
ロシア・ワールドカップ(W杯)の日本代表は、「日本らしい」プレーができていた。「日本らしさ」は代表チームとファンを結ぶ「つながり」なので、とても重要だ。それを再発見できただけでも、ロシア大会の意味があったと思っているぐらいである。
均質性の高いチームは「らしさ」を発揮しやすい。日本もそうだし、アイスランド、メキシコ、スウェーデンなどもそうだ。似たような選手が多く、互いに何を考えているかも理解しやすい。プレースタイルもその国らしくなる。ただ、スウェーデン人に「スウェーデンらしさ」を聞いても、たぶん要領を得た答えは返ってこない気がする。「え、サッカーってこうすんじゃないの?」的な反応になりそう。我々から見れば、スウェーデンもメキシコもいかにもその国らしいサッカーなのだが、当の本人たちはそれが普通だとしか思っていないのではないだろうか。
「日本らしさ」についても、日本人で理路整然と説明できる人は少ないだろう。応援する人々はそれで問題ない。日本代表が「日本らしい」プレーをしていること、つまり我々と彼ら(代表選手)の間になんらかのつながりがあることが大事なのであって、それが何かを正確に把握する必要はない。
代表選手の間では、「日本らしさ」はもう少し具体的になる。例えば、この瞬間に速攻を仕掛けるべきか否か。サッカーで頻繁に起こる、それゆえに重要な判断なわけだが、世界共通のこうすべきだという指標はない。それこそケースバイケースなのだが、ある程度の共通理解がないとチームとして上手く回らない。
バヒド・ハリルホジッチ監督の指導で、多くの選手が違和感を持った部分でもあった。ハリルホジッチ監督には、W杯で勝つにはこのタイミングで速攻ができなければならないという基準があった。ところが、選手との間にはズレがあった。
西野朗監督に代わると、そのズレはなくなった。日本の選手の感覚に寄ったからだ。もちろん個々の感覚は違うところもあるだろうが、ここは速攻、ここは遅攻という判断にそんなに大きなズレはなかったはずだ。自分たちはそれほど意識していなくても、「普通にやればこうだよね」という「日本らしさ」が、すでにあったということだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。