フランスのW杯制覇と移民系選手 「多人種統合の象徴」が“恥”を経て手にした一体感

フランスが見せた不思議な強さ「すごい強みもないが弱みもない」

 移民系選手の台頭は多様な才能をもたらした。ロシアW杯でのベルギー、イングランドもそうした恩恵を受けているチームだった。ドイツも前回大会はそうだったが、今回はトルコ移民の子であるメスト・エジルとイルカイ・ギュンドアンが、トルコの大統領に政治利用されたのではないかと批判を受けた。そうした多様化の副作用は、これから各国が経験していくことになると思う。フランスがそうだったように――。

 良いことも悪いことも経験したフランスは、デシャン監督の下で着実な成長を遂げて二度目の世界一へ到達した。今回のフランスのどこが強かったのか、正直良く分からない。特定の戦い方に特化しておらず、ジャンケンで言えば相手がグーを出せばパー、チョキならグーを出すようなチームだった。絶対的に強いのではなく相対的に強い。強豪国が軒並み対策をとられて失速するなか、フランスはどういう状況でもプレーの水準をキープできていた。

 すごい強みもないが弱みもない。泰然自若とまでは言わないが、崩れない強さがあった。チームに一体感がなければ決して持ち得ない強さだ。

 デシャンは真っ直ぐな男で、選手の時から監督よりリーダーシップがあった。ナントのユースで育ち、最初から多人種のなかにいた。移民も、怒りを内包した仲間たちも、全部当たり前に見てきた世代である。

 マルセイユでは、ほとんどアフリカ人ばかりのチームを指揮した。チームを一つにして前に進む。非常にシンプルで力強い信念を持ち、障害になりそうなものは片っ端から切り捨てている。多人種統合の象徴などという甘い幻想ではなく、まとまらなければ生きていけない、これしか道はないのだというメッセージを発したのが、今回のフランスだったように思う。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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