代表チームの「サッカースタイル」とは? W杯で再認識した“立ち返るべきもの”の尊さ
代表チームのサッカーに表れる国民性
彼らのサッカーは多くのファンには退屈だと思う。先日、スウェーデンのリーグで観客動員の最低記録が更新されたというから、ひょっとしたらスウェーデン人にとっても退屈なのかもしれない。けれども、今回のW杯でアイスランドやスウェーデンをそんなに飽きずに見ていられることに気がついた。
日本に直接関係ないカードだったこともあるが、なんとなく眺めるように見ていたら、そのままダラダラと見ていられた。意外性は少なく、武骨な大男たちが愚直にやり続ける単調なサッカーなのに、見続けていたらなんだかそれが心地良くなってきたのだ。意匠を凝らした庭園ではなく、ただ漠々と広がる海や砂漠を眺めているような気分だった。
アイスランドの応援として有名になった「バイキング・クラップ」は、英語だと「サンダー・クラップ」と呼ぶらしい。確かに遠くの方で雷鳴が一発轟き、だんだん近づいてくるような感じである。静寂を切り裂く雷鳴は何かが起こる合図。人々を詰め込んだスタジアムに荒涼とした大自然の風景が立ち上がる。その雄大さと重厚感が、フィールドで繰り広げられている極めて怜悧で合理的だが魂のこもったハードワークに重なっていく。戦うとは、あるいは自然を相手にした日々の営みとは、こういうことだと体現しているような気がする。
代表チームのサッカーには国民性が表れるとよく言われる。ただ、それは国家ではない。その国で暮らす人々であり、生活なのだと思う。国家の威信を懸けているのではなく、日々の生活に直結している何かが反映されている。だから簡単に負けるわけにはいかないし、自らの存在意義を示さないわけにもいかないのだ。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。