世界の潮流は「パスワーク+高速カウンター」 W杯で示した“日本らしさ”の必然と課題
激戦区を勝ち抜いたフランスとベルギーが備えた武器
南米で優勝経験を持つブラジル、アルゼンチン、ウルグアイの全3カ国や欧州王者のポルトガルが集結し、激戦ゾーンとなったロシア・ワールドカップ(W杯)準決勝第1試合に勝ち抜いてきたのは、フランスとベルギー。言わば、最も切れ味鋭いカウンターを武器とする2カ国だった。
ベルギーは、本田圭佑のCKをキャッチしたティボー・クルトワを起点とする日本戦(3-2)のカウンターが鮮烈だったが、準々決勝のブラジル戦(2-1)でもケビン・デ・ブライネがカウンターを結実させて2点目を奪うと、その後はエデン・アザールらを中心に速攻の刃をちらつかせながらも無理はせず、何度も相手ボックス手前で矛を収め最後尾までボールを下げるなど、巧みに時間を使った。
またフランスには、さらに効果的なカウンターの武器があった。ラウンド16のアルゼンチン戦(4-3)では開始早々にキリアン・ムバッペが自陣深い位置からの高速ドリブルでPKを獲得したが、その後もポール・ポグバのロングフィードからムバッペを走らせ、堅守から様相を一変させていた。
準決勝でベルギーを1-0で下した時のフランスのボール支配率は40%。後半に入ると全員が自陣に入り守備を固めたが、反面ペナルティーエリアには17回(ベルギーは8回)侵入し、19本のシュート(ベルギーは9本)を放っている。
そしてロングカウンターの基盤となるのが、相手のプレッシングを受ける守備ゾーンを切り抜ける巧みさで、痛快なダイレクトパスを何本も連ねてベルギーの最初のアタックを無力化していた。
ロシアW杯も実力が拮抗したノックアウトステージに入ると、ラウンド16から準々決勝までの計12試合中でPK戦にもつれた4試合を除くと、ボール支配率で上回ったチームは4勝4敗。スペインは75%もボールを支配しながら準々決勝でロシアにPK負けし(1-1、PK3-4)、グループリーグを振り返ってもドイツは韓国戦で71%、メキシコ戦も60%保持しながら敗れた。いくら圧倒的にボールを回しても、スペースを消されてしまうと結果には直結し難い。勝ち抜くには、相手のプレスをかいくぐるパスワークと、高速カウンターのセットが必須だった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。