VAR判定は確実にサッカーを変える―― W杯で示した「新時代のフェアプレー」
VAR導入でフェアプレーが促進されるのは確実
おそらくVARによる最も大きな影響はCK、FKの場面だ。攻撃側と守備側で腕をつかむ、ジャージを引っ張るといった行為はこれまで半ば黙認されてきたが、VARによって記録されている以上、下手なことはできなくなった。特に守備側は即PKになりかねないので、今までと同じ守り方(ファウル)はできなくなる。
FIFAはこれまで大会ごとにフェアプレーを呼びかけてきたが、さしたる効果はなかった。しかし、VARの導入によってフェアプレーが促進されるのは確実だ。モラルや良心に訴えかけても誰も動かなかったのに、損になると分かるとファウルをしなくなる。嘆かわしい気もするが、VARがフェアプレーの推進につながるなら結果的には悪いことではない。
VARの欠点は、試合の進行の妨げになることだ。サッカーのジャッジは速やかな進行を善としてきた。際どい場面ごとにVARで試合が止まるのは、従来のサッカーのあり方には反している。ただ、VARで試合が止まるのはPKやレッドカードなど重要なケースに限られているので、ある程度は仕方がないと思う。これまでもそういう判定を巡って選手が主審に抗議し、もめている時間はあった。選手たちが口々に主審にアピールするよりも、VARの結果を待っている方が見苦しくないかもしれない。
そして審判買収の防止にもなる。W杯のような舞台でまさかと思うかもしれないが、過去の大会で怪しい事例はいくつもある。VARの審判やスタッフまで買収するのは難しいうえに、映像が公開されているので誤魔化しようがない。
サッカーは人がやるもの。その原則はVARでも変わらない。映像を見て判定するのは主審である。ただ、人が行うがために発生していたミスや不正を減らすのに、機械が大きな役割を果たそうとしている。VAR方式は、もうすぐ訪れるAIの時代を示唆しているのかもしれない。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。