VAR判定は確実にサッカーを変える―― W杯で示した「新時代のフェアプレー」
賛否両論が残るも、試合を左右する判定をより正確に行える
ロシア・ワールドカップ(W杯)で導入されているVAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)には賛否両論あるようだが、この判定システムは確実にサッカーを変えると思う。
“機械判定”には、もともと根強い反対論があった。UEFA(欧州サッカー連盟)会長当時のミシェル・プラティニは、明確に反対の姿勢をとっていたものだ。プラティニが反対していた理由は「サッカーは人が行うもの」であり「トッププロから草サッカーまで同じであるべき」だった。判定に厳密性を求めるより、第三者に審判を頼んでいるのだから、たとえミスジャッジがあってもそれは受け入れるべきものという伝統的な考え方である。
しかし、現実にはミスジャッジは多くの選手、ファン、関係者にとって許容できないものになっていた。簡単に言ってしまえば、サッカーが大きなビジネスになっているからだ。
VARの利点は、試合を左右する判定をより正確に行えるようになったことである。
スペイン対モロッコのスペインの同点ゴールは、VARがなければオフサイドと判定されていただろう。事実、副審はオフサイドのシグナルを出している。
人間の目は時に錯覚を起こすもので、特にオフサイド判定の場合は錯覚を起こしやすく、それを知ったうえで判定している副審もいる。つまり、自分の目で見えたものとは違う判定をしているわけだ。人間は機械ではないからだが、それならばいっそ機械に判定を委ねた方が正確だということがVAR採用によって明らかになったのではないか。
フランス対オーストラリアではグリーズマンがVARによって与えられたPKを決めた最初の選手となった。今までは見逃されていたファウルがVARによって明らかになった結果、今大会はPKが多くなっている。逆にシミュレーションや悪質なファウルなどもVARによって暴かれるので、選手が審判を欺くような行為は今後減っていくだろう。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。