シンデレラガールの挫折 川澄無念の前半交代

反撃の1アシストにも関わらず非情交代「とても悔しかった」

  「私自身は、前半で交代してしまってとても悔しかった」
 なでしこジャパンMF川澄奈穂美(INAC)は唇を噛んだ。5日(日本時間6日)の女子ワールドカップカナダ大会決勝のアメリカ戦で、3点を追う前半39分に「9」の数字が示された交代ボードがピッチ脇に上がった。前半26分にはFW大儀見優季(ヴォルフスブルク)へのクロスで先制点を絶妙なクロスでアシストしたが、3点ビハインドを追う展開に、佐々木監督はアタッカーである川澄を下げ、FW菅澤優衣香(千葉)を入れる決断を下した。
 前回2011年ドイツ大会は準決勝スウェーデン戦で2得点を挙げる活躍で、「シンデレラガール」と呼ばれた。帰国後もなでしこフィーバーは続き、「オシャレ番長」と呼ばれては困惑していた。それでもサッカーに取り組む姿勢を見失うことなく、INACではチームキャプテンも務めながらなでしこリーグ3連覇に貢献。2014年にはアメリカのシアトル・レインに期限付き移籍するとチームの中心選手として活躍。サッカーに対して真摯に取り組んできた。
 攻撃の中心選手を示す「背番号9」を背負って臨んだ今大会でも、前7試合中6試合に出場。ゴールこそなかったが、2つのアシストを記録。右のサイドハーフに入り、右サイドバックの有吉佐織(日テレ)とのコンビネーションも冴えた。川澄は、W杯初出場になる日体大の2歳年下の後輩、有吉を攻守に渡ってサポートした。
 準決勝のイングランド戦では相手DFとGKの間に入れたアーリークロスが相手のオウンゴールによる決勝点を誘った。イングランドDFの悲劇性がクローズアップされたが、中3日で迎えたゲームの後半アディショナルタイムに、自陣から長い距離を駆け上がって正確なクロスを供給した。スタミナに自信を持つ川澄の真骨頂とも言えるプレーだった。
 それだけに、決勝戦での途中交代が悔しかった。それでも、川澄は準優勝に輝いたチームと、なでしこの不屈な気風を誇りに思っている。
 「技術の部分も勝ち上がるためには大事ですけど、根本の気持ちの部分が無ければ技術があっても勝てない。先輩方が築き上げてくださった、なでしこのあきらめない気持ちや仲間を信じて走り抜くことは受け継がれていると思います。仲間たちが、最後まで点差どうこうではなく1点を折りにいくという気持ちを見せてくれて本当に誇らしかったですし、それはこれからもずっと続けていくべきだと思います」
 なでしこがリベンジを期す2016年のリオデジャネイロ五輪で、川澄は節目となる30歳で迎える。決勝の舞台で味わった挫折を乗り越え、なでしこの精神を胸に走り続けていく。

【了】

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング