バンクーバーの衝撃 涙のなでしこは開始16分間の4失点で連覇ならず

大儀見の今大会2得点目などで反撃も実らず

 なでしこジャパンは5日(日本時間6日)、バンクーバーで行われた女子W杯カナダ大会決勝アメリカ戦で開始16分間の大量4失点を許し、5ー2で敗れた。今大会通算1失点の鉄壁の守備を誇るアメリカから初の複数得点を記録したが、大会2連覇はならなかった。アメリカは4大会ぶり3度目の優勝となった。
 2011年ドイツ大会、2012年ロンドン五輪に続く世界大会3連続で同一カードとなったアメリカ戦。現地カナダメディアでは「女子サッカーのクラシック」と呼ばれる一戦で、なでしこの佐々木監督は決勝トーナメント以降の同じスタメンを起用。定番の4-4-2システムでこの一戦に臨んだ。ジョーカーのFW岩渕や、このゲームがW杯ラストゲームになる澤をベンチに残してスタート。初戦スイス戦で左足骨折のFW安藤もチームに戻り23人全員で臨んだ。GK山根が安藤をおんぶし、今大会離脱していた安藤の代わりに7番のユニフォームを着せた白クマのぬいぐるみを岩渕が抱きかかえて入場。なでしこの武器である一体感を示しつつ大一番に臨んだ。
 一方、ドイツを破って決勝進出したアメリカは、ドイツ戦と同じメンバーでスタート。4年前のリベンジに燃えるFWワンバックはベンチスタートになった。55000人収容のBCプレイススタジアムはチケットも完売。巨大な「USAコール」が響き、なでしこは完全アウェー状態でキックオフを迎えた。
 立ち上がりアメリカの猛攻に、なでしこは苦戦を強いられる。3分、アメリカは右コーナーキックで低く速いボールを中央に入れると、後ろから走り込んだMFロイドが左足で合わせて先制。なでしこは今大会で初めてビハインドをを追う展開になった。続く5分、アメリカは右サイドからのフリーキックで再び低いボールを中央に入れると、ニアサイドでジョンストンが流したボールに走り込んだのは再びロイド。ゴールに押し込まれ、0-2とされた。ロンドン五輪決勝と同じく、アメリカの背番号「10」に2点を先制される苦しいゲームになった。
 その後、ボールのキープ率を高めて徐々に反撃体勢を整えるなでしこだが、悪夢は続く。14分にアメリカのMFヒースが右サイドから入れたクロスをDF岩清水が処理にもたつくと、後ろから走り込んだMFホリデーに決められて0-3に。直後の16分には、ハーフライン付近でボールを奪ったMFロイドが超ロングシュートを放つと、これがGK海堀の頭を越えてゴールへ入り0-4。16分間でハットトリックを達成したロイドは大会通算6ゴールとして得点王ランキングトップに並んだ。
 ショックから立ち直れないまま大量リードを許したなでしこの佐々木監督は動く。ボランチの宇津木を左サイドバックに下げて鮫島を1列前に上げた。宮間を中央に入れる配置変更を行った。23分、左サイドの鮫島から中央でボールを受けたMF阪口が右足でミドルシュート。これがなでしこの初シュートになった。すると27分、右サイドからMF川澄が中央に入れたボールをFW大儀見が相手と競り合いながら反転してトラップ。左足で柔らかくカーブを掛けたシュートがGKソロの手の先を抜けてゴールへ。1点を返した。このゴールで、残り28分間に迫っていたアメリカの1大会連続無失点の新記録達成を阻んだ。
 エースの今大会2得点目で勢いづくなでしこに、規律ある守備とリズムの良いボール回しという本来の持ち味が出始める。そして、佐々木監督が更に動く。33分に背番号「10」のMF澤の投入を決断。DF岩清水に代えてピッチに送り込み、阪口をセンターバックに下げた。中盤は宮間と澤が中央に並び、新旧のキャプテンに命運を託した。大量失点を許した岩清水はベンチで泣き崩れ、DF近賀が寄り添った。続く39分にはMF川澄に代えてFW菅澤をピッチへ。大野を右サイドに回し、高さのある2トップに切り替えた。なでしこは衝撃から立ち直り、リズムを取り戻した。前半は1-4で終えた。
 後半も立ち上がりはアメリカが再び流れに乗る。同5分にMFブライアンのミドルシュートが日本ゴールを襲ったが、GK海堀が必死に弾き出して難を逃れた。すると直後の同7分、ハーフライン付近から宮間が蹴ったフリーキックに澤が走り込むと、競り合ったアメリカDFジョンストンのオウンゴールを誘う。2-4とし、鉄壁の守備を誇ったアメリカに今大会初の複数失点をさせ、2点差に詰め寄った。
 しかし同9分、すぐさまリードを3点に広げられる。アメリカ左サイドからのコーナーキックがファーサイドに流れたところ、MFブライアンが折り返したボールをMFヒースに押し込まれ、2-5とされた。同14分、佐々木監督は切り札のFW岩渕を投入。大野に代わって右サイドに入った。アメリカは直後の同16分にMFラピノに代えてMFオハラをピッチへ。岩渕を入れたサイドの守備を強化した。
 その後は互いにゴール前に圧力を掛け合う展開になった。なでしこは宇津木や大儀見のミドル、アメリカはFWモーガンがシュートを放つ場面を作ったが、枠を外れた。同27分、ゴールが欲しい日本は佐々木監督の指示でDF有吉を高い位置へ。後ろを3バックにして前線を増やしに掛かった。トップ下の位置に移った岩渕が直後にドリブル突破を仕掛けるなど、総攻撃を掛け始めた。同31分には宮間のクロスに菅澤がヘッド。惜しくもGKソロの正面に飛んだ。ゲームが終盤に差し掛かった同34分、アメリカはヒースに代えてアメリカのレジェンドFWワンバックをピッチに送り込んだ。ピッチに入ったワンバックはキャプテンマークを受け取り、澤と軽くタッチをしてプレーに入っていった。終盤猛攻を仕掛けるなでしこに対して、アメリカはすかさず対応する。41分にはモーガンに代え、40歳のDFランポーンを投入。5バックにして守備を固めた。アディショナルタイム3分間を含めた日本の総攻撃も実らず、無情のホイッスルが鳴り響いた。
 11年ドイツ大会決勝では劣勢に耐え抜いたなでしこがPK戦の末に勝利。12年ロンドン五輪決勝では日本が試合を支配しながら1-2で惜敗。涙の銀メダルとなった。3度目の頂上決戦はアメリカの圧勝に終わった。

【了】

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

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