W杯敗退直後の「日本代表新監督」報道に違和感 協会は将来図を描けているのか
アジアカップまで時間がないなかで無理に代える必要はない
このタイミングで次期監督の話になることに違和感があるのは、料理にたとえれば協会側が何を食べたいのか決まっているように思えないからだ。協会が明確な見通しを持っていて、それに従ってたとえばクリンスマンに任せたいというなら話は分かる。ところが、協会が日本代表に関してのビジョンを発表したという話を寡聞にして聞かない。
何年にW杯ベスト4とか、FIFAランキング何位とかいう話ではない。もっと具体的かつ技術的な見通しだ。それがなければベスト4など絵に描いた餅ですらなく、単なる願望ないし夢と呼ぶものにすぎない。
日本がこの先、どういうサッカーをして、どういう進化の過程を辿るのか。そのために必要なことは何か。将来図を描いていることが前提であり、それがなければどの監督が合っているかどうかの判断ができないはずである。つまり、もし本当にクリンスマンを監督に招聘するつもりがある一方で、協会になんらビジョンがないとすれば、いざ監督が来てみて「全然合っていませんでした」という可能性は十分にあるわけだ。そんな無責任な監督人事を、しかも拙速にやらなければならない理由はどこにもない。
毎回思うのだが、アジアカップが半年後に控えている時期に監督を代えなくてもいいのではないか。今回は幸いにもW杯で良いプレーを披露できた。選手の入れ替えは避けられないとはいえ、西野朗監督の続投にそれほど異論はないだろう。ろくに時間も与えずに新監督にアジアカップを任せるより、少なくともアジアカップまでは西野監督を継続させ、その間に協会のビジョンをしっかりと構築しつつ、それに合致した監督に代えたいならばそうすればいい。
ビジョンもなく、唐突にクリンスマンの名前が出てきたことには違和感しかない。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。