なでしこのジョーカー岩渕の思い 「マナドーナ」が米国戦で因縁に決着を

悔し涙のロンドン五輪決勝を胸に

 アメリカと世界大会の決勝戦で顔を合わせるのは、前回のドイツ大会、2012年のロンドン五輪に続いて3大会連続だ。そのいずれのゲームでも岩渕は途中出場している。しかし、その記憶は苦いものとして残っている。特に、聖地・ウェンブリースタジアムで五輪の金メダルを懸けて戦った試合は、当時19歳の岩渕に大きな悔しさを残すものにな った。
 なでしこはアメリカに1-2とリードを許す苦しいゲーム展開になった。そして、1点を追う後半32分に岩渕は投入された。その「同点ゴールを取ってこい」というベンチからのメッセージは明らかだ。そして後半38分、千載一遇のチャンスが訪れた。
 敵陣内、左サイドでボールを奪うとゴールへと向かってドリブル。アメリカGKソロと1対1になった場面でファーサイドを狙って放ったシュートは、驚異的な身体能力を持つソロのセービングに阻まれた。そして、タイムアップの笛が鳴る。岩渕はピッチ上で人目をはばからず涙を流した。そんな記憶が「個人的にはアメリカ戦で何かをできたという記憶が一つもない」と言わせた。
 大会後は、ドイツに渡った。世界最高峰のリーグへの挑戦は2部 のホッヘンハイムからスタート。チームを1部に昇格させる原動力となり、その活躍が評価されて世界最大級の規模を誇る名門バイエルン・ミュンヘンの女子チームに引き抜かれた。そして今季、ブンデスリーガの頂点に立った。ドイツでのタイトルと大きな自信を手に、勇躍W杯の舞台に乗り込んだ。
 しかし、大会前の国内合宿で右膝を負傷。一時は大会へのメンバー入りも危ぶまれた。復帰した今も、右膝には白いテーピングが痛々しく巻かれている。そんな中でも、勝負を決めるなでしこのジョーカーとして準々決勝のオーストラリア戦で決勝ゴール。準決勝のイングランド戦でも相手に傾いた流れを引き寄せ、決勝点につなげた。なでしこを連覇を懸けた決勝戦へと導いた立役者の一人だ。
「チー ムとして点を取らなきゃ勝てないので、しっかりゴールに向かって全員で攻められるように頑張りたい。4年前も優勝して、一時期はなでしこフィーバーみたいなのが起こっていましたけど、またこれからもずっとなでしこを応援していただけるように、しっかりいい結果を残して、次につながるように頑張りたいです」
 悔し涙を乗り越え、次に流すのはうれし涙にしたい。2008年にU-17女子W杯でMVPを受賞し、世界を震撼(しんかん)させた「マナドーナ」が、なでしこの連覇を決めるゴールを奪う。
【了】
サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

 

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